ハヤブサ丸
賢吉少年たちは、うちに帰ると、自動車をとびおりて、おとうさんの部屋へかけこんでいきました。そして、息をはずませて、いまのできごとを伝えるのでした。
おとうさんは、すぐに警察へ電話をかけて、このことをしらせ、それから明智探偵事務所をよびだしました。
「なに、鉄の小箱をとられた? やっぱりそうでしたか。」
電話口の明智探偵は、そういって、ちょっと、考えているようでしたが、すぐに、ことばをつづけました。
「それじゃ、これからすぐに、おたくへうかがいます。電話ではお話しできないことがあるのです。しかし、ご安心ください。わたしは賢吉君に、かならず、まもってあげると、約束しました。その約束はちゃんとまもっているのです。」
そして、電話がきれたのですが、明智探偵は、いったい、なにをいっているのでしょう。鉄の小箱をまもるという約束だったではありませんか。その小箱はとっくに盗まれてしまったのです。いまごろになって、どうしようというのでしょう。おとうさんは、ふしぎそうに首をかしげました。
しばらくすると、明智探偵が、自動車でかけつけてきました。おとうさんと賢吉君は、明智を応接間にとおしてもてなしました。
「さっきの電話は、よくわからなかったのですが、鉄の小箱はあくまでまもってやると、おっしゃったようですね。」
おとうさんが明智をせめるように、たずねました。
「そうです。たしかにおまもりしています。」
名探偵は、にこにこして答えました。
「え、それは、いったい、どういうわけですか。鉄の小箱は、悪ものにとられてしまったのですよ。」
「いや、ご心配にはおよびません。とられたのは、箱だけです。なかみは、ちゃんとここにありますよ。」
明智はポケットから、大きな封筒をとりだして、その中から、船長の遺言書と、航海図と、保険会社の証書をだして見せました。
「あっ、それじゃ、先生は……。」
「そうですよ。こんなこともあろうかと思って、小箱のなかみを、すりかえておいたのです。悪ものが盗んでいった鉄の小箱には、白い紙がはいっているばかりですよ。」
賢吉君もおとうさんも、名探偵のぬけめのないやりくちに、すっかり感心していました。
「ああ、そうとは知らないものですから、しつれいなことを、もうしました。おゆるしください。さすがは明智先生です。これですっかり安心しました。」
おとうさんは、くりかえし、おれいをいうのでした。明智は、ことばをあらためて、
「宮田さん、悪ものどもは、このうえ、まだどんなたくらみをするかわかりません。金塊を、はやくこちらで引きあげることにしてはどうでしょう。遺言書に書いてあることは、うそではありますまい。わたしは、さっき賢吉君が帰られてから、しらべてみたのですが、いまから二十年まえに潮ノ岬の沖で、東洋汽船会社の大洋丸が、沈没したことは、たしかです。また、そのとき、引きあげ作業をやろうとして、できなかったことも、まちがいありません。
やってみるだけのねうちはあります。東洋汽船会社と保険会社に相談して、費用をだしてもらって、もし金塊が見つかったら、あなたと、汽船会社と、保険会社でわけるということにして、政府にもことわって、海の底を、さぐって見られてはどうでしょう。」
賢吉君のおとうさんは、しばらく考えていましたが、やがて、決心したようにいうのでした。