階段をおりたところに、広い部屋がありました。いや、部屋というよりは、大きなほら穴です。かたむいた床には、二十年のゴミがたまり、そこから人間の胸までもあるような、長いコンブのような海草が、いっぱいはえていて、歩くこともできないほどです。
そこは上甲板の下で、貴重品室などのあるところですから、潜水夫たちは、それをさがすために、おりてきたのですが、壁は、すっかり貝がらにおおわれていて、どこにドアがあるかもわからないほどで、とても、金塊のありかをみつけだす見こみはありません。
船室の床も、三十度かたむいているのですから、ナマリのくつで歩くたびに、ずるずるとすべります。しかし、陸上とちがって、すべっても、ころぶようなことはありません。水の中でからだが軽くなっているからです。
足がすべると、海草の根に十センチもたまっているゴミが、むらむらと目の前にわきあがり、むこうが、見えなくなってしまいます。また、海草のあいだに、かくれていたさかなが、むれをなして逃げだします。それが水中電灯の光の中をとおると、ウロコが金色、銀色にかがやいて、じつにうつくしいのです。
潜水夫は、手くびまではゴムの潜水服ですが、ゆびには軍手をはめていました。そのほうが仕事がしやすいからです。ひとりの潜水夫が、かたむいた床にすべって、どろどろしたゴミのなかに手をつきました。すると、その手に、なにかみょうな、かたいものがさわりました。
「おい、ほとけさまだぜ。」
陸上ならば、そういって、なかまにしらせるのですが、潜水服では、おたがいに話もできません。水中電灯を、二―三度、よこにふって、こちらを見よというあいずをしました。そして、ゴミの中のかたいものを、ひろいあげ、電灯の前に持ちあげました。
それはがい骨の頭でした。黒いほら穴のような目、くいしばった長い歯のれつ、潜水夫は、沈没船のがい骨には、なれていたのですが、やっぱり、ぶきみです。すると、もうひとりの潜水夫が、電灯の光の前に手を出しました。その手は、がい骨の足の骨を、にぎっていたではありませんか。
それから、水中電灯を、床のゴミのそばに近づけて、さがしてみると、手や足や、あばらの骨が、つぎつぎと、あらわれてきました。大洋丸の船員が、この部屋で死んでいたのです。それが、いまではバラバラの骨ばかりになって残っていたのです。