「おや、おそろしく大きなさかなだぞ。」
技師はおもわず、ひとりごとをいいました。電灯の光もとどかない、ずっとむこうの方から、クジラの子どもとでもいうような、でっかいさかなが、こちらへやってくるのが見えたからです。
このへんにもクジラがこないとはいえませんが、どうもクジラともちがっていました。それに、おかしいのは、目がおそろしく大きくて、自動車のヘッドライトみたいに、ギラギラ光っていることです。まるでメダカのように目が大きくて、しかもメダカの何万ばいもあるずう体をしているのです。こんなへんなさかなが、ほんとうにいるのでしょうか。
そんなことを考えているうちに、その巨大なさかなは、だんだんこちらへ近づいてきました。目が大きいばかりでなく、口が五月のぼりのコイのように、まんまるです。そして、その口がすこしも動かないのです。目の光は、ますます強くなってきました。まるでサーチライトのように、その前の水が、パッと明るくてらされているではありませんか。巨大なさかなの背中には、すきとおった空気ぶくろのようなものがついています。ひらべったいふくろです。
「や、や、あれはさかなじゃない。潜航艇だっ。魚形潜航艇だっ。」
技師はおもわず、とんきょうな声で叫びました。それは鉄でできていたのです。二つの目と見えたのは、潜航艇のヘッドライトだったのです。あのまるい口は、ひょっとしたら、大砲のつつ先なのかもしれません。
それにしても、このへんてこな潜航艇は、いったい、どこの国からやってきたのでしょう。いやいや、どこの国でもない。これはきっと、悪魔の国からやってきたのにちがいありません。