潜水機には、電車のヘッドライトのような、強い電灯がついていますから、夜の海のなかがよく見えます。
窓の外を魚が泳いでいます。カンテンみたいな、すきとおったクラゲが、ふわふわしています。それらが、スーッと、上の方へ、あがっていくのです。つまり潜水機の鉄の玉が、ぐんぐんさがっていくのです。ちょうどエレベーターに乗っているような気持です。
「ほら、あれが大洋丸だよ。でっかいだろう。」
技師のことばに、下を見ますと、貝がらのいっぱいについた巨大な船体がよこたわっていました。それが、スーッと近づいて、潜水機は、大洋丸のはすになった甲板の、ハッチの近くにとまりました。
むこうの方を、目玉のように光るものが、スーッと、とおりすぎました。
「あれ、なんです? 自動車のヘッドライトみたいなもの。」
「潜航艇だよ。ああして、大洋丸のまわりを、ぐるぐるまわっているんだ。いつ、敵の魚形潜航艇があらわれるかもしれないからね。」
そのうちに、空中から、いや、海中の上の方から、きみょうなものが、スーッとさがってきました。鉄の網と、それにとりついた三人の潜水夫です。
鉄の網は、甲板のハッチのすぐそばにおろされ、三人の潜水夫は、水中電灯をふって、こちらへあいさつをおくりながら、つぎつぎと、ハッチの中へおりていきました。
おりていったあとには、三本のロープと送気管が、長いフジづるかなんかのように、ゆらゆらとゆれていましたが、しばらくすると、その一本が、ピンとはりきって、つまり、上からひきあげられて、ひとりの潜水夫が、四角な木の箱をかかえて、ハッチから出てきました。そして、その箱を、鉄の網の中へいれました。いれておいて、またハッチの中へもどっていくのです。
すると、つぎの潜水夫があらわれ、おなじような箱を、鉄の網にいれ、もどっていくと、また、つぎの潜水夫というぐあいに、三人の潜水夫がハッチから出たり、はいったりしているうちに、鉄の網の中には、だんだん、箱の数がふえていきました。
金塊の箱は、ぜんぶで三十個ありましたが、一度にはむりなので、半分の十五個を、鉄の網にいれると、潜水夫が電話でしらせて、引きあげることにしました。
十五箱で、ふくらんだ鉄の網は、それをさげている太い鉄のロープがピンとはって、ゆらゆらと引きあげられていきます。三人の潜水夫は、はすになった甲板に立って、それを見あげています。
ところが、鉄の網が十メートルほどあがったときです。潜水夫のひとりがとびあがるような、へんなかっこうをして、鉄の網の上の方を、両手でゆびさしているのです。
すると、あとのふたりの潜水夫も、おなじように、両手をあげて、きちがいのようにおどりはじめました。
「おや、へんだぞ。もしもし、潜水機を、十二メートルほど、引きあげてください。鉄の網のロープがどうかしたようです。はやく、あげてください。」
技師が電話口にどなりました。
潜水機がガクンとゆれて、スーッと上にあがっていきます。鉄の網を、おいこして、ロープのところにきました。
「そのまま、鉄の網と潜水機と、おなじ速度で、引きあげてください。」
電話でいっておいて、まえのハンドルを動かすと、潜水機の窓が、ロープの方をむき、強い電光がそこをてらしました。
「あっ、カニだっ、カニがロープにぶらさがっている。」