小林君が、おもわずさけびました。人間の二倍もある、あのおばけガニです。そいつが鉄の網のロープにすがりついて、なにかモガモガやっているのです。
「あっ、たいへんだ。あいつはロープをきろうとしている。大きなヤスリを、ノコギリのように動かしている。」
こんどは、技師がさけびました。そして電話口へ、
「もしもし、潜水機を、鉄の網に近づけてください。ロープをきろうとしているやつがいるのです。こちらは鉄のツメで、攻撃します。」
スーッと、ロープへ近づいていきました。巨大なカニが、すぐ目の前にうごめいています。
「さあ、たたかいだっ。見ててごらん。いまに鉄のツメで、あいつを、やっつけてやるから。」
技師は、いさましくさけぶと、まえのハンドルに手をかけました。ギーッという音がして、潜水機のよこについている、巨大な鉄のはさみが動きはじめました。
カニの背中は、すぐまえにあるのです。鉄のツメは、その方へ、ニューッと、のびていきました。しかし、潜水機そのものが、上からぶらさがっているのですから、おもうようになりません。いまひといきというところで、とどかないのです。
「もっと、近づけて、もっと、もっと。」
電話口にどなりながら、技師は、歯ぎしりをして、ハンドルをうごかしています。
「あっ、とどいたっ、しめたぞ。」
ハンドルをガチンとやると、鉄のツメがグッとはさみました。カニの足を二本はさんで、ぐいと、もぎとってしまったのです。
しかし、あいては、へいきです。つくりものの足をきりとられたって、なんでもありません。
ヤスリの動きは、ますますはげしく、キーキーという音が、潜水機の中まで聞こえてくるような気がしました。
鉄の網も、潜水機も、全速力で、引きあげられています。
ロープがきれないうちに、あげてしまおうというのです。
もう、ハヤブサ丸から十メートルほどになりました。いまひといきです。
しかし、ああ、そのときです。とうとうロープがきれたのです。おばけガニはロープからはなれて、スーッと、むこうへ消えていきました。
鉄の網は、おそろしいいきおいで下へ落ちていきます。網がひろがって、十五の箱が、バラバラにちらばって落ちていきます。そして、あるものは、大洋丸の甲板にぶつかり、あるものは海底の岩にぶつかり、くさった木の箱はこわれて、とびちり、ピカピカひかった金塊が、八方に散乱しました。