賢吉少年の危難
それがわかると、ハヤブサ丸では、おおさわぎになりました。すぐに、五人の潜水夫をもぐらせて、金塊を集めることにしましたが、五人も潜水させるためには、いろいろの用意をしなければなりません。それにまっ暗な夜のことですから、いっそう仕事がむずかしいのです。
ハヤブサ丸の甲板には、明るい電灯が、いくつも、つりさげられ、そのしたで、おおぜいの船員たちが右に左に、かけまわって、潜水の用意をしているのです。
賢吉少年は、おとうさんのそばで、そのいさましいありさまを、ながめていましたが、ちょっと、じぶんの船室に用事があったので、そこへおりるハッチの方へいきますと、むこうの、暗い甲板から、ひとりの水夫が、しきりに手まねきしているのに、気づきました。
船のなかの、おもだった人びとや、船員たちは、みんな、一方のふなばたにあつまって、潜水夫をおろす仕事をしていました。電灯もそのへんだけについていて、ほかの甲板はまっ暗なのです。そのまっ暗な甲板から、水夫が手まねきしているので、賢吉少年はふしぎに思いました。
「なんですか。」
とたずねますと、その水夫はにこにこして、
「小林さんが、あっちに待っているんです。ぼっちゃんを、よんできてくれと、いわれましたのでね。」
と答えました。小林さんというのは、むろん、明智探偵の助手の、小林少年のことです。小林少年は、まるい鉄の潜水機にはいって、海底に沈んでいましたが、さっき潜水機が引きあげられ、その中から出て、じぶんの部屋でやすんでいるはずです。それが、どうして、いまごろ賢吉君をよぶのでしょうか。
「小林さんは、どこにいるのですか。」
賢吉少年が、また、たずねますと、水夫は、船尾の方をゆびさして、
「あちらです。ぼっちゃんに、急用があると、いっています。」
と答えて、まっ暗な船尾の方へ歩いていきます。賢吉少年は、へんだなとおもいましたが、まさか、ハヤブサ丸に、敵がいるなんて、おもいもよらず、少年探偵団長の小林君がよんでいるとあっては、団員として、命令に、そむくわけにいきませんから、つい、うっかりと、その水夫のあとについていきました。
船尾の甲板は、気味がわるいほどまっ暗でした。すかして見ても、人かげらしいものは見あたりません。
「小林さんはどこにいるんですか。だれもいないじゃありませんか。」
すこし、こわくなって、そういいますと、水夫は、
「ほら、そこですよ、あのタルのむこうですよ。」
といって、賢吉少年の手をとりました。
見ると、三メートルほどむこうに、大きなビールのタルのようなものが、おいてあります。ふつうのビールダルよりは、ずっと大きなやつです。
小林さんはタルのかげなんかでなにをしているんだろうと、ふしぎにおもって、いそいで、そこへ近づきましたが、タルのむこうを見ても、だれもいないのです。タルのふたがとれていましたので、もしタルの中にいるのではないかと、のぞいて見ましたけれど、タルの中は、酒も水もはいっていない、からっぽでした。
「あっ、なにをするんです……。」