魚形艇は、スーッと、頭をさげて海の底とすれすれまで、おりて来ました。するとその背中にかたまっていた八ぴきの怪物が、ぴょいぴょいと、海底にとびおりたのです。そして巨大なワニのようなかっこうで、潜水夫たちの方へ、はいよってくるではありませんか。
「わー、引きあげてくれえ! 鉄の人魚がやってきた。はやく、はやく。」
五人の潜水夫たちが、口々に、わめきました。その声が、ハヤブサ丸の受話器にガンガンとひびくのです。
技師はいそいで、機械係に、引きあげのあいずをしました。ガラガラとロープがまきあげられます。
やがて、五人の潜水夫は、ほうほうのていで、ふなばたにはいあがって来ました。そしてカブトをぬがせてもらうと、海底のおそろしいありさまを、くわしく報告するのでした。
いっぽう、みかたの潜航艇は、ハヤブサ丸から無電の命令をうけて、すぐさま、潜水夫のもぐっている場所へ、いそぎました。
そこへついたときには、ちょうど、八ぴきの鉄の人魚が海底におりたところでした。敵の魚形艇は、はやくも、こちらの潜航艇に気づいて、いきなり逃げだしました。
ギラギラひかる二つ目玉の怪魚と、それを追う三つ目玉の潜航艇、両方とも、全速力で、海の底を走るのです。海底のさかなどもは、時ならぬ巨大な怪物の襲来にあわてふためいて、逃げまどう。それが二つの潜航艇のヘッドライトにてらされて、金色に、銀色に、チラチラと、美しくひらめくのです。
二つの艇のあいだは、五十メートルほど、へだたっていました。にげる魚形艇は、みさきの海岸の方へ、まっしぐらに走っていたのですが、もうすこしで、海岸にとどきそうになったところで、ふっと、その姿が見えなくなってしまいました。
二つの目玉の電灯を消したのだろうと、こちらのヘッドライトで、そのへんいったいを、くまなくさがしました。でも、あの大きな魚形艇が、かげも形も見えないのです。海の水にとけてしまったようにあとかたもなく、消えうせたのです。
そのへんの海底は、でこぼこした岩ばかりで、なかには小山のような大きな岩もあります。敵はその岩のかげに、かくれているのではないかと、ながいあいだ、ぐるぐるまわってさがしましたが、どこにもいません。
そんな大きな魚形艇が、そんなにうまく、かくれられるものではありません。ゆうれいのように消えてしまったとしか、かんがえられないのです。
しかたがないので、そのことを、ハヤブサ丸に無電でしらせておいて、味方の潜航艇は、そこをひきあげることにしました。
それにしても、魚形艇は、いったいどうしたのでしょう。あんな大きなものが、海底の砂の中へもぐるわけにはいきません。コンブなどの林も、魚形艇をかくすほど大きくはありません。もしや海面に浮きあがったのではないかと、こちらも、浮きあがってみましたが、やっぱり、かげも形もないのです。
海底の魔術です。鉄の人魚の怪物団は、ふしぎな魔術をこころえていたのでしょうか。