明智探偵の変装
ハヤブサ丸の無電室は、味方の潜航艇から、魚形艇が消えうせたという知らせをうけましたが、それにおどろくひまもなく、やがて、どこからか、みょうな無電がはいって来ました。「ハヤブサマル、ハヤブサマル」と、なんども、よびだしをかけてから、おなじもんくを、くりかえし、うってきました。
「ミヤタケンキチクンハ、アズカッテイル、タイヨウマルノ、キンカイゼンブト、ヒキカエニ、ケンキチクンヲカエス。ショウチシナケレバ、ケンキチクンノイノチハ、ナイモノトオモエ、ヘンジマツ」
無電技師は、それをかきつけた紙を持って、甲板の船長のところへ、とんできました。
「なに、賢吉君をあずかっているだって? 宮田さん、賢吉君はどこにいるんです。へんな無電がきましたよ。」
そこにいた宮田さんと明智探偵が、船長の手から、その紙をうけとって、おそろしいもんくを読みました。
「賢吉は、じぶんの船室へいくといって、さっき、おりていったままですが。」
宮田さんが、まっさおになって、つぶやきました。
「じゃ、船室へいってみましょう。」
明智はそういって、いきなり船室へおりるハッチの方へ、とんでいきます。宮田さんも、そのあとから走りだしました。
しばらくすると、明智探偵と宮田さんが、甲板にかけあがってきました。
「船室にはいません。みなさん、賢吉少年がいなくなったのです。手わけをして、船の中を、さがしてください。」
明智がさけびました。それから、おおさわぎになって、船員たちは、いく組にもわかれて、船の中のあらゆる場所をさがしましたが、少年の姿はどこにもありませんでした。
「へんですよ。水夫の北川もいなくなってます。もしやあいつが……。」
ひとりの船員が、報告しました。
「そうだ。あいつが、敵のまわしものだったかもしれない。賢吉君がひとりで、船から姿を消すはずはないのだ。」
船長が、くやしそうに、さけびました。
「魚形潜航艇の中へ、さらわれたのかもしれませんよ。われわれは、みんな潜水の仕事のほうに集まっていたので、反対がわに、潜航艇が浮きあがって、賢吉君を乗せていっても、だれも気がつかなかったでしょうからね。」
技師がじぶんの考えをはなすと、みんなも、たぶんそうだろうと思いました。
「しかし、無電の返事をうたなければ、賢吉がどんなめに、あうかもしれません。といって、金塊をわたすわけにはいかないし、明智さん、どうしたものでしょうね。」
宮田さんが、青い顔をして明智に相談しました。
「あすまで、返事を待ってくれという無電をうっておくのですね。そのあいだに、ぼくは、ちょっとやってみたいことがあるのです。ひょっとしたら、うまく賢吉君をとりもどすことができるかもしれません。」
明智は、なにか、自信ありげに、いうのでした。
そこで、船長は技師をよんで、あしたまで、返事をまってくれという無電をうたせました。
「明智さん、やってみたいとおっしゃるのは、どういうことですか。」