一直線に歩くのではなくて、松の林があれば、その中をしらべ、こだかくなった丘があれば、そのまわりをしらべ、地面に穴があれば、その中をのぞくというふうに、なにかをさがしながら歩きまわるのでした。
海の方をながめると、ハヤブサ丸の船体が、ボーッと黒く見えています。そのハヤブサ丸が、いちばん近くに見えるところにきますと、明智探偵は、いままでよりは、いっそう注意ぶかく、そのへんの地面をしらべていましたが、ふと立ちどまって、むこうの松の林を見つめました。
そこには大きな松の木が五―六本はえて、その下に、せいのひくい木が、いっぱいしげっていました。名探偵は、そのしげみの中に、なにかをみつけたのです。
「しずかに、音をたてないように。」
小林少年に、そっとささやいて、そこに近づくと、松の木の太いみきのかげに、からだをかくして、むこうのしげみを、すかして見るのでした。
まだうす暗い夜あけまえでしたが、じっと見ていると、だんだん目がなれて、そのへんがはっきり見えてきました。
「おや、こんなところに、モグラがいるのかしら?」
小林少年は、おどろいて、そこを見つめました。しげみの中の草が、グラグラと動いているのです。猟犬のようにするどい明智探偵は、さっきから、それに気づいていたのでしょう。
草は、ますますひどく動きだしました。六十センチ四方ほどの地面が、草といっしょに、グーッと、もちあがってくるのです。そして、あっとおもうまに、その草のはえた土が横に動いて、そのあとに、まっくらな四角い穴がひらきました。
それから、じつにふしぎなことが、おこったのです。その四角な穴から、なにものかがニューッと、首をだしたではありませんか。それはモグラではなくて人間の首でした。
その人間の首は、用心ぶかく、キョロキョロと、あたりを見まわしていましたが、こちらのふたりには、すこしも気づかず、だれもいないとおもったのか、そのまま、穴からはいだしてきました。その男は、やっぱり、そのへんの漁師のようなふうをしていました。三十五―六の強そうな男です。
これはいったい、どうしたわけなのでしょう。海岸の地面の中から、ひとりの人間が、わきだしてきたのです。この男は、ツチグモのように、土のなかに住んでいるのでしょうか。あの黒い穴の下には、なにがあるのでしょう。そこは防空壕のようにひろくなって、人間のすまいになってでもいるのでしょうか。
穴から出たあやしい男は、草のはえた土を、もとにもどして、穴のふたをしました。それから、もう一度、よくあたりを見まわして、どこへいくのか、いそぎ足に歩きだしました。
明智探偵は、それを見ると、小林少年のうでを突っついて、あいずをしました。そして、あいてにさとられぬように、そっと、男のあとを尾行しはじめたのです。
あやしい男は、海岸の反対の方角へ、どんどん歩いていきます。そちらには、さっきの部落とちがって、もっと大きな漁師村があるのです。
その道に、こだかい丘が、そびえていました。男はテクテクと、その丘の下を歩いています。そのとき、明智探偵はまた小林少年のうでを突っつきました。そして、いきなりかけだしたのです。
おそろしい早さです。まるで、くろい風が吹きすぎるようでした。小林君もつづいて、いっしょうけんめいにかけだしました。
明智の黒いかげが、パッと、あやしい男のうしろからとびかかりました。そしてあっというまに、男は、そこへねじふせられてしまいました。