はだかの勇士
明智探偵は、なんのために、その男をとらえたのでしょうか。また、その男をどこへつれていって、なにをしたのでしょうか。それはしばらく、おあずけにしておいて、お話はそれから五―六時間たった、その日のおひるごろのできごとに、うつります。
沖にてい泊しているハヤブサ丸では、宮田さんや、船長や、サルベージ会社の技師や、そのほかおおくの船員が、甲板にあがって、海面を見つめていました。
岸の方から、一そうの小船が、ハヤブサ丸をめがけて近づいてきたからです。その船には、おとなと子どもと、ふたりの漁師が乗っています。おとなのほうが、ろをこいでいるのです。
まもなく、小船はハヤブサ丸のすぐ下まできました。そして、甲板の人たちにむかって、手をふりながら、大きな声でどなっています。
「はしごを、おろしてくれ。」
見もしらぬ漁師が、ハヤブサ丸に、乗せてくれといっているのです。
「おまえは、だれだ……。なんの用事があるんだ……。」
甲板から、だれかが、大声でたずねました。
「ぼくは明智だ。よく顔を見てくれ。ここにいるのは小林だよ……。」
甲板の人たちは、明智探偵ときいて、びっくりしてしまいました。しかし、よく見ると、顔は黒くよごれているけれど、明智にちがいないことがわかりましたので、いそいで、はしごをおろしました。
漁師姿の明智と小林少年とは、はしごをのぼって、甲板にあがり、宮田さんや船長や技師などといっしょに、下の船室へはいりました。そして、三十分ほど、なにか相談をしていましたが、それがおわると、明智探偵は、なにか大きな黒いふろしきづつみを、こわきにかかえて、甲板にあがってきました。そして、小林少年といっしょに、また、もとの小船に乗りうつって、そのまま岩ばかりの海岸にむかっていきました。
ふたりが帰ってしまうと、ハヤブサ丸の中は、にわかにさわがしくなってきました。船長が、船員や水夫たちを呼びあつめて、ある命令をくだしました。すると、船員や水夫は、いそがしそうに、あちこちと歩きまわってなにかのよういをはじめたのです。まるで戦争でもはじまるようなさわぎです。
無電技師は、みかたの潜航艇を無電で呼びかえし、まもなく、あの小型潜航艇が、ハヤブサ丸のすぐそばに、浮きあがりました。すると、ハヤブサ丸のボートがおろされ、十三人の、はだかの船員や水夫たちが、そのボートに乗りこみました。ズボン下ひとつのまっぱだかです。みんな、肩のきん肉がリュウリュウともりあがり、うでには大きな力こぶのある強そうな人たちばかりです。
そのはだかの人たちはみんな、背中に酸素のボンベをつけ、水中めがねをもち、足のさきには、大きな水かきをはめ、手には、みょうな形の水中銃を持っていました。
ボートはロープで潜航艇のうしろにつながれ、やがて、潜航艇は、海面に浮きあがったまま、ボートをひっぱって、どこかへ出発するのでした。
それから二十分ほどたったころ、潜航艇は、みさきのすぐそばの、岩ばかりの海底にしずんで、ヘッドライトの三つ目を、ギラギラとひからせていました。
そのむこうの断崖のようになった岩に、大きなほら穴があるのです。ゆうべ、敵の魚形潜航艇が、とつぜん、消えてしまったのは、このへんでした。そのときは、ほら穴の前にそびえている岩山に、へだてられて、ほら穴が見えなかったのです。
さっき、明智探偵は、敵の魚形艇が消えたへんに、きっとほら穴があるから、さがすようにと、いいのこしていきましたので、みかたの潜航艇が、それをさがしまわって、やっとみつけたのでした。そのほら穴は、魚形艇が、やっとはいれるほどの大きさです。おくの方はまっくらで見えませんが、ひじょうにふかい洞窟のようです。ボートに乗って、みかたの潜航艇にひかれてきた、十三人のはだかの勇士はボートから海底にもぐって、洞窟の入口のまわりを、泳ぎまわっています。
ゆうべ、ハヤブサ丸のそばの海岸にあらわれた、鉄の人魚たちは、そのへんにちらばっていた金の棒をひろいあつめて、やはりこのほら穴の中へ、もどっているにちがいないのです。その鉄の人魚どもが、いつまた出てくるかもしれません。もし出てきたら、水中銃でうってやろうと、はだかの勇士たちは待ちかまえているのです。
十三人のはだかの勇士が、水中めがねをつけ、ボンベをせおい、足には大きな水かきをつけ、水中銃をかまえて、ほら穴の上下左右を、じゅうおうに泳ぎまわっているありさまは、じつにいさましい光景でした。あるものは、洞窟にもぐりこんで、中のようすを、しらべようとしています。
明智探偵の報告によって、賢吉少年も、この洞窟の中に、つれこまれていることがわかりましたので、あわよくば、洞窟のおくふかく泳ぎこんで、賢吉少年をさがしだそうとしているのです。
それにしても、賢吉君は、洞窟の中で、怪物団のために、どんなひどいめにあっているのでしょうか。