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湖畔亭事件(26)

时间: 2021-10-19    进入日语论坛
核心提示:二十六「ヤア、お入りなさい」 仕合せと河野は帰っていて、私の顔を見ると、いつもの様に笑顔で迎えました。「君、今森の中にね
(单词翻译:双击或拖选)

二十六


「ヤア、お入りなさい」
 仕合せと河野は帰っていて、私の顔を見ると、いつもの様に笑顔で迎えました。
「君、今森の中にね、又変な奴がいるのですよ。一寸出て見ませんか」
 私はあわただしく、しかし囁き声でいいました。
「この間の男でしょう」
「そうかも知れません。森の中で懐中電燈をつけて、何だか探していたのです」
「顔を見ましたか」
「どうしても分らないのです。まだその辺にうろうろしているかも知れません。一寸出て見ませんか」
「君は前の街道の方へ出たのですか」
「そうです。(ほか)に逃げ道はありませんからね」
「じゃ、今から行って見ても無駄でしょうよ。曲者は街道の方へ逃げる筈はありませんから」
 河野は意味あり気にいうのです。
「どうして分ります。君は何か知っているのですね」
 私は思わず不審を打ちました。
「エエ、実はある点まで範囲をせばめることが出来たのです。もう少しです。もう少しですっかり分ります」
 河野はいかにも自信のある様な口調でいいます。
「範囲をせばめたというのは」
「今度の事件の犯人は、決して(そと)から来たものでないということです」
「というと、宿の人の中に犯人がいるとでも……」
「まあそうですね。宿の者だとすると、森から裏口へ廻ることが出来ますから、街道の方なんかへは逃げないと思うのです」
「どうしてそんなことが分りました。それは一体誰です。主人ですか、傭人ですか」
「もう少しですから待って下さい。僕は今朝からそのことで夢中になっていたのです。そして、大体目星をつけることが出来ました。だが、軽率(けいそつ)に指名することは控えましょう。もう少し待って下さい」
 河野はいつになく思わせぶりな、妙な態度に出ました。私は少からず不快を覚えましたけれど、それよりも好奇心が先に立ってなおも質問を続けるのでありました。
「宿の者というのは変ですね。僕も実はある人を、それが多分君の考えている人だろうと思いますが、一応疑って見たのですよ。(しか)しどうも分らない点があります。第一死体をどう処分したかが不明なのです」
「それです」河野も(うなず)きながら「僕もその点だけがまだ分らないでいるのです」
 言葉の調子では、彼もまた問題の財布の持主である所の、湖畔亭の主人を疑っている様子です。定めし彼は、私の知っている以上の確な証拠でも、握ったのでしょう。
「それに、例の手の甲の傷痕です。僕は注意して見ているのですが、宿の人達にも、泊り客にも、誰の手にもそれがないのです」
「傷痕のことは、僕はある解釈をつけています。多分あたっていると思うのですが、でもまだハッキリしたことは分りません」
「それから、トランクの男についてはどう考えます。今の所誰よりもあの二人が疑わしくはないでしょうか。長吉が彼等の部屋から逃げ出したことといい、トランクの男が長吉の所在を探し廻っていたことといい、彼等の不意の出立といい、そして二つの大型トランクというものがあります」
「いや、あれはどうも偶然の一致じゃないかと思いますよ。僕は今朝その事に気づいたのですが、君が殺人の光景を見たのが十時三十五分頃でしたね。それから、階段の下で彼等にあった時まで、どの位時間が経過していたでしょう。君の話しでは五分か十分の様ですが」
「そうです。長くて十分位でしょう」
「ソレ、そこが間違いの元ですよ。僕は念のために、彼等の出立した時間を番頭に聞いて見ましたが、番頭の答えもやはり同じことで、その間には五六分しかたっていないのです。その僅の時間で、死体を処分して、トランクにつめるなんて芸当が出来るでしょうか。たとえトランクにつめないでも、人殺しをして、血のりを拭き取り、死体を隠し、出立の用意をする、それだけのことが五分や十分で出来る筈がありません。トランクの男を疑うなんて実に馬鹿馬鹿しいことですよ」
 聞いて見れば、成程河野のいう通りです。私はまあ、何という馬鹿馬鹿しい妄想を描いていたのでしょう。警察の方では、私の錯覚なんか気がつきませんから、女中達の証言に照し合せて、てもなくトランクの男を疑ってしまった訳です。
「長吉を追っかけたことなんか、芸者と酔客との間にはあり勝ちの出来事です。妙な目で見るから事が間違うのです。不時の出立にしたって、彼等にどんな急用が出来たのか分りませんし、君と(でッ)くわして驚いたというのも、誰だってそういう不意の場合にはびっくりしようじゃありませんか」
 河野は事もなげにいうのでした。
 それから暫くの間、私達はその飛んでもない間違いについて語り合いました。私は余りの失策に、河野に対しても面目(めんぼく)なく、馬鹿馬鹿しい、馬鹿馬鹿しいとくり返すばかりで、それから先は真犯人のせんさくをする余裕もなく、うやむやの内に自分の部屋へ引下りました。
 その時、私は河野の口吻(こうふん)から、彼の疑っているのは宿の主人に相違ないと極めてしまい、私もその積りで応対していたことですが、あとになって、実はそうでないことが分りました。私という男は、この物語において、初めから終りまで、道化役を勤めていた訳です。探偵気取りもないものです。

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