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新宝岛-不可思议的帆船

时间: 2021-10-16    进入日语论坛
核心提示:不思議な帆船 ある夏休のことでした。 小学校六年生の琴野一郎(ことのいちろう)、前田保(まえだたもつ)、西川哲雄(にしかわて
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不思議な帆船


 ある夏休のことでした。
 小学校六年生の琴野一郎(ことのいちろう)前田保(まえだたもつ)西川哲雄(にしかわてつお)の三少年は、琴野君のお父さまにつれられて、九州の長崎市(ながさきし)へ旅行しました。
 三少年のお(うち)は東京の芝区(しばく)にあって、お父さん同志が大へん親しくしていらっしゃるので、まるで親戚(しんせき)のように、たえず行き来をしている間柄でした。
 三人とも一学期の試験の成績が、これまでよりもずっとよかったものですから、その御褒美にというので、ちょうど琴野君のお父さまが、長崎の親戚に御用があって旅行なさるのをさいわい、兄弟のように仲よしの三少年を、長崎見物につれて行って下さったわけでした。
 長崎港は日本で一番早くひらけた、外国との取引の港として、国史や地理の時間に、いろいろ面白いお話を聞いていましたので、三人はもう大喜びです。
 少年たちは、長崎に着きますと、琴野君の親戚のお家に泊って、そこの小父(おじ)さんの案内で、毎日市内を見物してあるきましたが、町には東京などでは見られない古い洋館や支那(しな)人の家がならんでいて、西洋人や支那人がたくさん歩いていますし、すぐ町つづきの港には、支那や台湾(たいわん)へ行く大きな汽船が毎日出入りしていますし、昔のオランダ屋敷の跡だとか、古い古いキリスト教の会堂だとか、支那人の建てた妙な形の寺院だとか、どれもこれも珍しいものばかりで、なんだか外国へでも来たような気持がするのでした。
 さて三人が長崎へ着いて五日目のことです。もう一とおり市内の見物をおわって、近いところならば、少年たち三人だけで遊びに行ってもいいというお(ゆるし)が出ていましたので、夕方から、子供ばかりで散歩に出たのですが、三人の足はいつとはなく、海岸の桟橋(さんばし)の方へ向いていました。三人はそれほど船が好きだったのです。広い桟橋に横づけになっている、大小さまざまの汽船が、なんだかなつかしくて仕方がなかったのです。
 古めかしい西洋館の建並んだ町つづきに、汽車の駅のような建物があって、その広い待合室には、台湾や、支那の上海(シャンハイ)などへ旅行する人達が、たくさん集っていて、ガヤガヤと、海の向こうの珍しい町の話などをしているのです。そこを通りぬけますと、すぐにもう青々とした広い海で、その岸にコンクリートの白い道が、目もはるかにズーッとつづいていて、そこへ黒いのや黄色いのや、いろいろの形の船が、横づけになって、日に焼けた船員や水夫達が、行ったり来たりしているのです。
 本当は係の人の(ほか)は、桟橋へ出てはいけないのですが、三人は子供のことですから、ついそれとも知らず、いつの間にか、大きな汽船の横づけになっている白い道をあるいていました。
 海の(におい)、汽船のペンキの匂、石炭の煙の匂などがゴッチャになって、いかにも港らしいなつかしい匂が、あたりにみちています。全体が真黒(まっくろ)で、水に近いところだけ、真赤に塗ってある、まるで高い高い壁のような汽船の横腹、その前を、海軍将校のような金モールの徽章(きしょう)の帽子をかぶった船員が、大きなパイプをくわえて歩いて来るかと思うと、腕に入墨(いれずみ)のある西洋人の水夫が、白い水夫帽を横っちょにかぶって、妙な歌をうたいながら通りすぎます。そういう景色が、どれもこれも、三人の少年にはなつかしくてたまらないのでした。
 三千トンもある黒い支那通いの船の次には、その半分ほどの大きさの、全体を黄色くぬった、外国の貨物船らしいのが、横づけになっています。見上げますと、その高い甲板のはしに、一人の西洋人の水夫が腰かけて、足をブランブランさせながら、煙草をすっていましたが、下を通る三人の少年を見て、ひょいと挙手の礼をして、にっこり笑って見せました。三人も思わず手をあげて、にっこり笑って、それにこたえましたが、そんなことが、少年たちの気持を一そうウキウキさせるのでした。
 もう家へ帰ることなど、すっかり忘れて、どこまでも白い道をあるいて行きますと、黄色い汽船の次に、それよりは又少し小さい黒い貨物船がいて、その次には、今までの船よりはずっと小さい、めずらしい型の帆船(はんせん)が横づけになっていました。
 帆はすっかりおろしてありましたが、帆桁(ほげた)のいくつもついたマストが三本立っていて、その頂上からたくさんの綱が、蜘蛛(くも)の巣のように張ってあって、縄梯子(なわばしご)のようなものもかかっています。そして、帆船のくせに、その船の真中には、細い烟突(えんとつ)が一本ニューッと突出ているのです。風のない時には、蒸気機関ではしる、補助機関つきの帆船なのでしょう。
「ヤア、すてき、トラファルガルの海戦の絵にあるような船だねえ」
「ウン、ほんとだ。いつか見た商船学校の練習船もこんな形だったぜ」
「ワア、ごらんよ、ごらんよ。恐しい怪物がいるよ」
「どこに? どこに?」
(へさき)だよ。舳のかざりだよ」
 いかにも、その帆船の舳には、人間とも動物ともわからない、奇妙な姿の彫りものがついているのです。頭に角があって、目がまん丸で、口は耳までさけて、そのくせ人間のような姿をした、怪物の半身像です。
 三人はその不思議な彫刻にすっかり夢中になって、いつまでもそこに立止っていましたが、すると、一人の水夫がそばへよって来て、にこにこしながら、少年たちに話しかけるのでした。
「あれかい? あれはこの船のマスコットだよ。あいつが、ああやって目玉をむいている間は、この船は決して沈むようなことはないのさ」
 縞模様のある薄いシャツに白ズボンをはいた、三十四五歳のやさしい顔の水夫でした。
「じゃ、小父さんこの船の人かい」
「ウン、こう見えても、小父さんはこの船の水夫長(ボースン)なんだぜ。この船のことなら、船長よりもよく知っているんだ」
「じゃ、この船日本の船なんだね」
「そうとも。日本の船とも」
 水夫長と名のる男は、目を細くして、いやに力を入れて答えました。
「これからどこへ行くの?」
「南洋だよ。南洋貿易をやっているのさ」
「ねえ、小父さん、この船の中も、やっぱり普通の汽船みたいになっているの?」
「ウン、まあそうだがね。しかし、ちっとは変ったところもあるよ。なにしろ今時めずらしい三(しょう)スクーナーだからな。君たちが聞いたこともないような妙なものも、いくらかあろうっていうもんだ」
 それを聞きますと、三人はもうたまらなくなって来ました。
「ねえ、小父さん、僕たちに船の中を見せてくれない? ちょっとでいいんだから、ねえ、小父さん」
「ワハハハハハハ、そう来るだろうと思ったよ。ウン、よしよし、見せてやるよ。じゃ、君たち、小父さんのあとからついて来な」
 船の横腹に、四角な船艙(せんそう)の入口がひらいていて、桟橋から厚い渡板がかけてあります。水夫長は先に立って、その渡板を渡り、薄暗い船の中へ入って行くのです。三少年は、フワフワ動く渡板をふんで、そのあとにつづきました。
 せまい急な階段をのぼって、上甲板に出て、あちこちと、めずらしい道具などを見せてあるいたあとで、水夫長は三人をつれて、又別のせまい階段をおり、小さな船室に入りました。
「まだいろいろ見せるものがあるがね、マア、ここで一ぷくしよう。ここが俺の部屋だよ。どうだい可愛い部屋だろう。ところで、君たち(のど)がかわかないかね。コーヒーを一ぱいごちそうしよう。ちょっと待っていたまえね」
 水夫長はひとりでしゃべって、少年たちが何も答えないのに、そのままそそくさと、どこかへ出て行きましたが、やがて、銀色の盆にコーヒーの茶碗を四つのせて帰って来ました。
「サア、えんりょなくやりたまえ。船のコーヒーは、とてもうまいぜ」
 少年たちはすすめられるままに、コーヒーを受取って、三人ともそれを飲みほしました。何だか普通のコーヒーよりにがいような気がしましたが、喉がかわいていたものですから、ひとたらしも残さず、飲んでしまったのです。
「ハハハハハハハ、みんな飲みっぷりがいいぜ。一息にやってしまったね。サア、もうちっとここで休んでね。それから面白いものを見せて上げるよ」
 水夫長は何か意味ありげに言って、にやりと妙な笑い方をしました。そして、少年たちの様子をじろじろとながめているのです。
 三人の少年は、小さな木の椅子に腰かけて、水夫長の顔を見ていましたが、そのにやにやしている顔が、スーッと遠くなって行くように思われました。そして、あたりが(もや)でもかかったように、ぼんやりして、それがだんだん暗くなって、地の底へでも落ちこんで行くような気がしたかと思うと、そのあとはもう、何が何だか少しもわからなくなってしまいました。
 つまり、三人が揃いも揃って、居眠(いねむり)をはじめたのです。はじめは椅子にかけたままコクリコクリやっていましたが、やがて、次々と椅子からすべり落ち、床の上にグッタリとなって、(いびき)さえ立てはじめました。
「ウフフフフフフ、うまく行ったぞ。眠薬(ねむりぐすり)利目(ききめ)は恐しいもんだな。だが、食料品積みこみのついでに、こんな可愛い子供が三人とは、悪くない獲物だぞ。これで又一もうけ出来るというもんだ」
 水夫長と名のる男は、そんな恐しいことをつぶやきながら、薄気味悪くにやにやと笑って、そっと部屋を出ると、外からドアをしめて、カチンと鍵をかけてしまいました。

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