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新宝岛-哲雄君的第二功

时间: 2021-10-16    进入日语论坛
核心提示:哲雄君の第二の手柄 そして、一箇月ほどは、これという大事件もなくすぎさりました。何よりも恐しいのは、夜寝ている間に、猛獣
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哲雄君の第二の手柄


 そして、一箇月ほどは、これという大事件もなくすぎさりました。何よりも恐しいのは、夜寝ている間に、猛獣におそわれることでしたが、少年達の用心がきびしかったためか、しあわせにも、まだ一度もそういう事は起りませんでした。しかし、その一月の間には、いろいろ苦しいことや、気味の悪いことや、おかしいことや、たのしいことがあったのです。それらをくわしく書いているひまはありませんが、おもなことを二三しるして見ますと、まず第一に困ったのは、一週間ほどたった時、お米がすっかり無くなってしまった事です。度々ボートで沈没船に行って、料理場にあるお米を運んで来たのですが、それもみんなたべつくしてしまったのです。しかたがないので、メリケン粉で、だんごのようなものを作って、お米の代りにしていましたが、それもやがて残りすくなになって来ました。
 一方では、沈没船から持って来た釣道具で、魚を釣ったり、森の中を歩きまわって例の鹿をうったりして、副食物の方はどっさりあったのですが、そういう肉類ばかりでは、ごはんをたべたような気がしません。どうしてもお米かパンがなくては、がまんができないのです。
 ところが、ある日のこと、三人が森の中を歩いていて、ふと妙な木の実を見つけました。高い木の青々とした葉の間に、まるい果物のようなものがたくさんなっているのです。果物なら椰子の実だけで十分ですから、はじめは見向きもしなかったのですが、保君がじょうだん半分に木登をして、もいで来たのを、ナイフで割って見ますと、中には白い肉が一ぱいつまっていて、その味が普通の果物とはちがっているのです。
「ア、もしかしたら、これパンの木じゃないかしら」
 物しりの哲雄君が叫ぶように言いました。
「エ、パンの木だって?」
「そうだよ。写真で見たことがあるんだよ。もしパンの木ならね、土人達はこの実を土の中に埋めて、蒸焼きにしてたべるんだって書いてあったよ。一つためして見ようじゃないか」
 ちょうどお米が無くなって困っていた時ですから、一郎君も保君も、すぐに賛成して、その実を海岸の方へ持帰り、土の中に埋めて、その上で焚火をして、ためして見ることになりました。
 十分焚火をして、土の中から、ホカホカと湯気を立てている実を取り出し、ナイフで切ってたべて見ますと、これはどうでしょう、まるでトーストパンのような味がするではありませんか。
「すてきすてき、やっぱりパンの木だったね。これでもうお米がなくても大丈夫だ。あの木なら、この間から方々で見かけたよ。森の中にいくらだってあるんだよ」
 食いしんぼうの保君が、うれしそうにおどり上って言うのでした。
 たべ物の方はこの大発見で、もう心配はなくなりましたが、まだほかに、たべものよりはもっと大切な仕事があったのです。それは夜のともし火のことでした。
 夜、まっくらな中で寝るのはかまいませんが、いざという時、いつでも火が燃やせるように、火の種を用意しておかなければなりません。凸レンズで火をつくることは出来ても、それは太陽が出ていなくてはだめなのですから、夜の間や、雨の日、曇の日のために、どんな小さな火でも、たえず燃やしておかなければならないのです。
 はじめは、洞窟の前で焚火をして、夜も昼もそれを燃やしつづけて置くことにしましたが、それにはたれか一人、いつも番をしていて、火が消えないようにしなければならないので、夜も寝ずの番がいるわけで、ひどく不便です。それに洞窟の外で、一人ぼっちで火の番をしているなんて、心細くてしかたがありません。
「僕たちの手で蝋燭(ろうそく)を作ることが出来ればいいんだがなあ」
 少年達は腕を組んで考えこみましたが、すると、三人の頭に申しあわせたように同じ考がうかんで来ました。それはロビンソンクルーソーの物語です。
「ロビンソンは、こんな時、どうしたんだっけ。自分で蝋燭を作ったんじゃないのかい?」
 一郎君が物しりの哲雄君の顔を見て言いました。
「ウン、そうだよ。だが、最初は蝋燭でなくて、山羊の脂身(あぶらみ)をしぼって、燈心を燃やす油を取ったのだよ」
 哲雄君は実に物おぼえがいいのです。
「ア、そうだったね。じゃ、僕らも鹿の脂身から、油を作れないかしら」
「そうだね。でも、なんだかむつかしそうだよ。……」
 哲雄君はしばらく考えていましたが、何を思いついたのか、にわかに目をかがやかしながら、いきおいよく言いました。
「ア、いいことがある。椰子の実の白い肉ね、あれを干して、油を絞るんだって、本に書いてあったよ。椰子油っていうのさ。動物の脂なんかより、あれを絞る方がらくらしいぜ」
「ア、そうだ。君はえらいねえ。何でも知っているんだねえ。そういえば、椰子油のこと学校で教わったの思い出したよ。エエと、何だっけなア、そうそう、コプラっていうんだろ。その椰子の実の干したの」
「ウン、そうだよ。だが、絞り方がむつかしいね。手なんかではだめだし、一つその道具を考え出さなくっちゃ」
 哲雄君は、それからそれへと、すばしこく頭を働かせるのでした。
 ほんとうの椰子油製造工場では、いろいろこみ入った機械をつかって、進んだ方法で油をしぼっているのですが、そんなほん物のまねはとても出来ませんし、いくらかしこい哲雄君でも、そういうこみ入った機械のことを知っているはずはありません。
「ほした椰子の実の肉を石でたたいても、つぶせないことはないけれど、それでは、手間がかかって仕方がないし、ア、いいことがある。沈没船から持って来た洋酒の空樽があったねえ。あれを使えばいい。あの樽の中へ干した椰子の実をたくさん入れて、樽の底に近いところに錐で小さな穴をいくつもあけて、上からおしつぶせばいいんだ。そうすれば、椰子の油が、その小さい穴から、しぼり出されるわけだからね」
 哲雄君は考え考え、ひとりごとのように言うのでした。
「だって、上から手でおしたぐらいじゃ、とてもだめだぜ。くだくだけでなくって、油をしぼり出すんだからねえ。とても僕たち三人の力ぐらいではだめだよ」
 一郎君が首をかしげながら言いました。
「だから、人間の何十倍もある強い力をつくり出すんだよ」
 哲雄君はすました顔で、妙なことをいいます。
「エ、人間の何十倍の力だって?」
 一郎君と保君は、びっくりしたように、口をそろえてさけびました。
「ウン、そうだよ。なんでもない事じゃないか」
 哲雄君はそういって、自分の(かんがえ)を説明しました。すると二人は、
「ナアンだ。そんな事か」
 といって、笑いましたが、みなさん、この哲雄君の考がわかりますか。電気も蒸気機関もない無人島で、人間の何十倍もある力をつくり出すなんて、ちょっと聞くと、まるで魔法のような気がするではありませんか。いったい哲雄君はどんな方法を考え出したのでしょう。みなさんも、一つ考えてみて下さい。
 その日から、哲雄君は、洞窟の前の地面を仕事場にして、油しぼり機械の製造をはじめました。いわばそこが少年達のお国の製造工場になったわけです。
 哲雄君は二人の少年にてつだってもらって、森の中から、四メートルもある長いまっすぐな木を一本きり出して来て、その枝をはらって、太さも長さも、この間こしらえたオールの二倍ほどもある、一本の丈夫な棒をつくりました。
 棒をつくるのにまる二日かかりましたが、そのあくる日には、沈没船から運んで来て、洞窟の中においてあった、西洋酒の樽を持ちだし、その一方の底をぬいて、その丸い板のふちをけずって、それが樽の中へ自由に入るようにしました。つまり、その丸い板で椰子の実を、上からおしつけようというわけなのです。
 西洋酒の樽は、日本のお酒の樽とはちがって、まるで石のようにかたい木でこしらえ、それに厚い鉄の輪がいくつもはめてあるのですから、よほど強い力をくわえても、こわれるようなことはありません。
 それから、その丸い板のまん中に、樽の深さよりはちょっと長いくらいの、太い木の棒を、まっすぐに立てて、紐でむすびつけました。ちょっと見ると、大きな独楽(こま)のようなものが出来たわけです。
 十分道具もなくて、かたい木を切ったり、けずったりするのですから、とても大へんな仕事です。いく度も失敗して、やりなおしたりしたので、それが出来上るまでには、三人がかりで五日もかかってしまいました。
 さて、六日目には、いよいよ機械の組立作業です。三人は朝早く起きて、かいがいしく仕事にとりかかりました。洞窟の入口のわきの岩山のすその、地面とすれすれのところに、一箇所岩角の出っぱった部分があります。哲雄君はその岩角から六十センチほどはなれた地面に、例の洋酒の樽をおいて、その中に、椰子の実の肉の干したのを、どっさりつめこみました。椰子の実は、この仕事をはじめた日、たくさんもぎ取って、中の白い肉を天日に乾かして、用意しておいたのです。そして、その上から、あの独楽のような丸い板を、棒の方を上にして、ふたをしました。まわり二十センチもあるその棒は、ニュッと樽の上につき出ているわけです。
 それから、最初につくった四メートルもある長い棒を、三人がかりで、その場に運び、棒の一方の端を、さっき言った地面とすれすれの岩角の下へ突込んで、動かぬようにしておいて、一方の端をグッと高く持ち上げました。
 そして、その棒がさっきの樽の中から突出している棒の上に、Tの字形に乗るようにして、棒と棒とを丈夫な紐でくくりつけたのですが、すると、長い棒は、ちょうど井戸のポンプの柄をグッと上におし上げたような形になりました。
「サア、みんな、棒の先にぶら下っておくれよ」
 哲雄君のさしずで、二人の少年はその空にはね上っている長い棒の先の方へ、椅子をふみ台にして、両手でぶら下り、二人の体の重みで、ちょうど井戸のポンプをくむように、下へ引下げようとしました。哲雄君は樽に抱きついて、それが倒れないようにがんばっているのです。
 みなさん、おわかりですか。これは物理学の挺子(てこ)の原理というのです。この棒を長くすればするほど、どんな強い力でも出せるのです。井戸のポンプの柄と同じわけなのです。むかし西洋のある物理学者は、「もし私にそんな大きな棒と、それを支える場所とを造ってくれる人があれば、私は一人の力で、この地球だって動かして見せる」といいましたが、挺子の作用はそれほど恐しい力をつくり出すのです。
 哲雄君は実にうまいことを思いつきました。これなら本当に人間の何十倍の力が出せるのです。でも、椰子の油はなかなか思うようにはしぼれません。岩角にはさんである棒の先が飛出したり、樽の上の棒と棒とがはずれたり、樽が横倒しになったりして、何度も何度もやりなおさなければなりませんでした。
 しかし、失敗しては工夫をし、又失敗しては工夫をして、三時間ほど、汗びっしょりになって働きましたが、どんな事だって、うまずたゆまずやりつづけていれば、しまいにはなしとげられるものです。三少年のがまんづよい努力はとうとう成功しました。油がとれたのです。樽の横腹の小さな穴から、受けてある鍋やどんぶりの中へ、油がどっさりしたたり落ちたのです。
 哲雄君はなんという感心な少年でしょう。何もないところからまず火をつくり出し、今度はその火をたやさないように、油までつくり出したのです。
 しぼり取った油を、シーツの布でこして、それを少しお皿に入れて、それから、シーツのはしを細く切ったきれをこよりにして、燈心の代りにお皿の中へ入れ、そのはしへ火をつければ、りっぱなともし火が出来るのです。
 こうして、少年達はその夜から、気味のわるい暗闇の中で寝ないでもすむようになったのでした。

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