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新宝岛-魔湖

时间: 2021-10-16    进入日语论坛
核心提示:魔の湖 ヘンリーは、それからしばらくの間、話しつかれたのか、グッタリとなって、目をつむり、苦しそうに肩で息をしていました
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魔の湖


 ヘンリーは、それからしばらくの間、話しつかれたのか、グッタリとなって、目をつむり、苦しそうに肩で息をしていましたが、やがて又目を見ひらくと、手帳を開いて一つの絵をかきました。
 それは頭もひげも真白な、イギリス人らしい一人の老人の姿で、手に一枚の地図をひろげて、前にひざまずいているもう一人の人物に、何か教えているところです。地図にはこの「やまと島」の形が記され、教えられている人物は、ヘンリーによく似た姿をしています。
 それから、ヘンリーは、いろいろの手真似をして、自分はその絵の老人に、この島のことを教えられたのだということ、そして、その老人はやはりイギリスの水夫で、今から二十年も前に、この島に漂流して、あの鋸のような山の向側にたどりつき、不思議な黄金の国を発見したのだという事を、少年達にわからせました。そして、そこには、鎧や兜ばかりでなく、大きな石の建物の中に、沢山の金のかたまりが、しまいこんであるということを、又別の絵をかいて示しました。
 そうして、話を聞いているうちに、少年達にも、それがまんざらうそではないらしく感じられて来るのです。ヘンリーの恐しいほど真剣な顔、驚くほど熱心な身ぶり手真似を見ていますと、けっして夢の話や童話ではなくて、なんだかほんとうのことのように思われて来るのです。
 湖水のむこう岸にそびえる、高い高い岩山、まるでこの世の(はて)かとも見えるあの鋸山のうしろに、ひょっとしたら、そんな不思議な世界が隠されているのではないか、金色(こんじき)に光りかがやく宝の国があるのではないかと思うと、少年達は、楽しいような怖いような、なんともいえない気持になって、ゾーッと背筋が寒くなるのでした。
 ヘンリーは、少年達がまだ疑っているらしい様子を見て、何を思ったのか、左手のシャツの袖をグッとめくり上げ、そこにはめていた金色の腕環(うでわ)をぬきとって、哲雄君に手渡し、「これが何よりの証拠だ」というような身ぶりをして見せました。そして、又手帳をひらいて、さっきの白髪の老人が、その腕環をヘンリーに手渡している図をかくのでした。
 つまり、その腕環は、老人が黄金の国から持ち帰ったお土産の一つで、それをヘンリーが老人からもらったのだという意味です。
 それは、全体が蛇の姿に彫刻してある、何ともいえぬ妙な感じの腕環でした。まるで子供がいたずらでもしたような、あらけずりの下手な彫刻ですが、それでいて、グッと鎌首をもたげた蛇の頭が、いきいきとして、今にも動き出しそうに見えるのです。
 少年達は、それを次から次と手に持って、しらべてみましたが、キラキラ光る美しい色といい、重さといい、いかにもほんとうの金製品らしく思われるのです。
 哲雄君は、ふと思いついて、その腕環をかるく指にかけ、小石を拾って、たたいてみましたが、すると、リーンというような、なんともいえぬ美しい音色がします。ほんとうの金でなくては、そんな音がするはずはないのです。
 ヘンリーは、哲雄君のかしこいやり方を見て、ニッコリ笑いました。そして、「その腕環は君達にあげるのだよ」という手真似をして見せるのでした。きっと少年達から受けた親切な介抱のお礼のつもりなのでしょう。
 そして、その夕方、このかわいそうなイギリス人は、言うだけのことを言って安心したのか、せまって来る夕闇の中で、ともしびの消えるように息をひきとってしまいました。奇妙な黄金の腕環が、少年達へのかたみとなったわけです。
 たった五六日の間のお友達ではありましたが、少年達は、気の毒な外国人の小父さんの死を、心からいたまないではいられませんでした。
 その晩は、お通夜(つや)のつもりで、ヘンリーの死体の上にシーツの白布をかけ、森の中から探して来た草花を、その枕もとに供えて、少年達は、例の椰子の油のともしびをかこみ、何かとなき人のことを語り合うのでした。
 翌日は朝早くから、森に出かけて、手ごろの木を切り、ヘンリーがその友達のためにこしらえてやったのと同じ十字架を、少年達の手で造って、ヘンリーの死体をうずめた土の上に立てました。淋しい山上湖の岸べに、二つの十字架が立ちならんだのです。そして、ヘンリーとアントニーとは、その下で、仲よく眠っているのです。
 そうしてヘンリーのお葬式をすませてしまいますと、三人の少年は、岩山の裾の日陰に車座になって、目の前の気味悪いほど静かな青々とした湖水を眺めながら、これからのことを相談するのでした。
「ヘンリーは、僕たちに黄金の国へ行けとは言わなかったけれど、きっと自分の代りに僕たちが探検すればいいと思っていたのだろうね」
 三人の中では一番勇気のある一郎君が、探検旅行に出かけてみたくてしかたがないという顔で、口を切りました。
「そりゃそうかも知れないけれど、ヘンリーでさえ、黄金の国へ行く道をハッキリしらない様子だったから、子供の僕たちが、うまくそこまで行けるかしら。それにヘンリーの話では、そこへ行く道にはずいぶん危険なところがあるっていうのだから」
 哲雄君は、考えぶかいだけに、ちょっと聞くと臆病とも取れるような口のきき方をします。
「でも、いくら待っていたって、僕たちを助けてくれる船なんて、来っこないよ。どうせこの島にいるくらいなら、もっと奥の方へ行ってみたいなあ。あの高い山のむこうに、そんな美しい国があるのかと思うと、僕はなんだかゾクゾクして、我慢が出来ないような気がするんだよ」
 保君はあくまで無邪気です。
「そうだよ、保君のいう通りだよ。僕たちは、わるくすれば、一生涯この島にとじこめられているのかも知れないんだ。どうせ島から出られないとすれば、同じところにグズグズしているより、出来るだけ島の中を探検して見る方がいいと思うよ。それに、もし危険だと思えばそこから引返せばいいんだからね」
 一郎君は言葉をつくして、哲雄君を説きふせようとします。それから、しばらくの間、三人の間に議論がたたかわされましたが、おしまいには、さすがに用心深い哲雄君も、とうとう二人の考えに賛成することになりました。
「それじゃ、行けるところまで行ってみようよ。ほんとうに、同じ場所にじっとしていたって仕方がないんだからね」
 それを聞いて、おどり上ったのは保君です。
「バンザーイ! いよいよ探検隊の出発だ。サア、早く用意をして、出かけようよ」
「マアお待ちよ。僕たちはいったいどの方角へ進んだらいいのか、まずそれを()めなけりゃあ。湖水の岸はすっかり岩山でかこまれているんだから、なるべく通りやすい所をさがして、ちゃんと見込みを立ててから出発するんだよ」
 一郎君が、はやる保君をおさえるように言いました。
「それには僕に一つ考えがあるよ。(いかだ)を造るんだよ。そして、それに乗って湖水を渡るんだ。そうすれば、けわしい山をよじのぼるより、どんなに楽かしれないし、荷物だって、ウンとのせて行けるんだからね。筏をつくる時間を加えたって、かえってその方が早く向岸へ着けるかも知れないぜ。僕たちの目ざす黄金の国は、ちょうどこの向岸の方角なんだから……」
 例によって考え深い哲雄君が、名案を持出しました。
「アア、そうだね。そうすれば、食料も沢山つめるし、猿や鸚鵡も一緒につれて行けるからね。じゃあ筏をつくることにきめよう」
 一郎君が感心したように言いますと、保君も「すてき、すてき」と賛成するのでした。
 そこで、その日の午後から、三少年の手で、筏の製作がはじまりました。立木を倒すには、その後沈没船から探し出して来た(まさかり)(のこぎり)がありますので、その鉞を一番力の強い一郎君が立木の根元にうちつけ、保君が鋸を使い、きり倒した木を湖水に浮かべて、それを三人がかりで結び合わせるというわけです。結ぶのに、だいじな麻縄を使ってしまうのはもったいないので、森の中の木蔦(きづた)のるいを切り取って縄の代りにし、かんじんの部分だけほんものの麻縄を使うことにしました。
 そして、その翌日の夕方には、湖水の岸に、大きな筏が、子供の手際とは思えないほど立派に出来上って、浮かんでいました。保君はそれを見て、筏の進水式だといって、大はしゃぎです。
 その晩は洞窟の中で眠って、夜のあけるのをまちかねて、筏の上に道具るいのつみこみがはじめられました。二挺の猟銃と弾丸(たま)はもとより、食料品、鍋や食器のるい、釣道具、麻縄、シーツその他の布るい、椰子油を入れた瓶とともしびの道具など、三人の家財道具の大部分がつみこまれ、少年達の外にポパイも眼鏡猿も鸚鵡も、家族のこらずが乗りくみました。
 筏の両側には、哲雄君の考案になる妙な(かい)が一本ずつついています。筏の材木のはじに麻縄の環を作って、そこにボートのオールのようにけずった木の棒が通してあります。少年達はかわるがわる筏のはじに立って、それをこぐというわけです。
 天気は申分ありません。湖水は鏡のように静かです。それに、山上湖のことですから、海岸よりはずっと温度もひくく、真昼になっても、太陽の熱にたえられぬというほどではありません。
 そして、筏はいよいよ岸をはなれました。三少年の一家族は、かくして黄金の国探検の()についたのです。
 筏は気持よくスーッスーッと進んで行きます。しばらく行くと、保君が大きな声で叫びました。
「一郎君、あれごらん、白い鳥がいるよ。今晩のごちそうに、君の銃で打っておくれよ」
 湖水の上に、白い水鳥が泳いでいるのです。
「ウン。じゃあ漕ぐのをおよし。僕があいつを打ちとめて見せるから」
 一郎君は元気よく答えて、銃を持って、筏のまん中に立上り、水鳥にねらいをさだめました。そして、名射手一郎君は、ただ一発のもとにえものを打ちとったのです。
 大急ぎで筏をその場に近づけますと、猟犬のポパイはたまりかねたように、一声高く吠えたかと思うと、いきなりザブンと水中に飛びこみ、みごとに泳いで、えものをくわえて帰って来るのでした。
 ああ何という楽しい船旅でしょう。もし少年達の探検旅行が、おしまいまで、こうして楽しくつづいたら、こんな仕合せなことはありません。
 しかし、そうは行かなかったのです。三人の行手には実に恐しい危険がまちかまえていたのです。少年達の一生を通じて、最大の危難がまちかまえていたのです。
 それは、湖水にすむ鰐だったでしょうか。空から襲いかかる猛鳥だったでしょうか。それとも人喰人種に出くわしたとでもいうのでしょうか。イヤイヤ、そういう生きものの危難ではありません。では、とつぜん嵐でも起って、筏をくつがえしたのでしょうか。
 イヤ、そういう天変地異でもありません。それは、この世の何人もまだ味わったことのない、どんな言葉でも言いあらわせないほど、恐しい事柄だったのです。

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