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時をかける少女23

时间: 2017-12-30    进入日语论坛
核心提示: いつか会う人「おおい、芳山君、帰ろう。きみのカバンを持ってきてやったよ!」 浅倉吾朗は、大声で理科教室へはいってきた。
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  いつか会う人
 
 
「おおい、芳山君、帰ろう。きみのカバンを持ってきてやったよ!」
 浅倉吾朗は、大声で理科教室へはいってきた。和子の姿を求めて、実験室をのぞいたかれは、床に倒れふしているかの女を見て、立ちすくんだ。
「芳山君!」
 吾朗はすぐに、かの女のかたわらに駆けより、抱きあげようとした。医務室へ運んでいこうとしたのである。しかし和子のからだは、ずんぐりむっくり[#「ずんぐりむっくり」に傍点]の吾朗の手にあまった。
「よわったなあ……」
 吾朗は泣きそうな声で、和子の冷たくなった手をさすりながらいった。
「きっと疲れたんだ。あんな広い教室を、たったふたり[#「たったふたり」に傍点]でそうじさせるなんて、むちゃだよ……」
 かれは立ちあがり、応援を求めて職員室へ行った。さいわい、担任の福島先生が、まだ帰らず、残っていてくれた。
 先生と吾朗が、ふたりがかりで和子を医務室へかつぎこみ、注射をすると、かの女は低いうめき声をあげて、目をさました。
「ああ……わたし、どうしたのかしら?」
「貧血を起こして倒れていたんだ。実験室で……」
 吾朗のことばで、和子は、そうじ道具をしまおうとして理科実験室へはいっていったことを思い出した。だが、それから先は、どうしても思い出せなかったのである。
「そうじ当番は、きみたちふたりだけだったのかい?」
 福島先生の問いに、吾朗はちょっと、ふくれた顔つきをしてみせた。
「そうなんです。あの広い教室をそうじするのに、たったふたり[#「たったふたり」に傍点]だけだったんですよ。ぼくと芳山君と……。だから芳山君、きっと疲れて倒れたんです」
「それはわるかったなあ」
 福島先生は、心から、すまなそうにいった。
「じゃ、あしたからは、当番の人数をふやすことにしようかな」
 一夫が未来へ帰ったあとの、この現代[#「現代」に傍点]には、もはや深町一夫という少年は、だれの心にも、存在しなくなったのである。一夫のことはもう、福島先生も、浅倉吾朗も、そして芳山和子の心からも、消え去っていた。この世界には、深町一夫はいなかった。和子のクラス(学級)には、深町一夫という生徒の席はなかった。そしてもちろん、だれもそれを、不自然とは思わなかったのである。
 それから三日のちの夜、浅倉吾朗の家の隣にあるふろ屋からは、火事は起こらなかった[#「火事は起こらなかった」に傍点]。したがって、その次の日の朝、和子も吾朗も、寝すごすことなく登校したため、あの交差点で、大型トラックにひかれそうになるなどということもなかった。
 すべては、深町一夫が未来へ帰るときに、和子たちのことに気を配ってしてくれた措置だった。だがもちろん、和子も吾朗も、そんなことは知らない。
 深町一夫に関することがらだけでなく、和子の心からは、あの不思議な、超現実的な現象になやまされたことも、だれにうちあけようかと、ひとり苦しみ続けたことも、すっかりぬぐいさられていた。
 和子に、平和な日がもどってきたのである。
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