そう言ったのは七十二歳の私のおばあちゃんだった。「ディ…ディズニーシー?!」私たち家族は思わず顔を見合わせた。七十二歳のおばあちゃんと言っても、まだピンピンしている訳ではない。骨粗しょう症により背骨がつぶれているため、腰は曲がり、常に足は痺れている状態なので、杖なしでは立っていることさえ難しいのだ。しかし何としてでもおばあちゃんを連れて行ってあげたい…。私も、家族の誰もがそう強く思った。
車イスの確保や、車イスでも楽しめるアトラクション調べなど、おばあちゃんが少しでも安心して、そして楽しめるようにと、みんな一生懸命になって考えた。
そして向かえた当日。汗だくになりながら車イスを押したが、おばあちゃんのとびきりの笑顔を見ると、疲れなど一瞬にして飛んでいった。そして楽しい時間はあっという間に過ぎていき、辺りはいつの間にか暗くなっていた。夜空には次々と大きな花が咲き始め、みんなの口から思わず声がもれた。
私がおばあちゃんと手を繋いで花火を見ていると、おばあちゃんの手が微かに震えているのを感じた。驚いて顔をのぞくと、打ち上げられた花火で照らされたおばあちゃんの顔は、涙でぐちゃぐちゃだった。
「おばあちゃん?どうしたの?!」
私はなぜおばあちゃんが泣いているのか分からなかった。おばあちゃんはハンカチで涙をふきながらも、ゆっくりと話し始めた。
「今日は本当にありがとね。おばあちゃんはまさか、連れてってもらえるとは思ってもみなかったよ。本当に夢みたいだ。もう思い残すことは何もないよ。死んでも、もう 悔いはないねえ。」
私はおばあちゃんの口から軽く出た「死」という言葉を聞いたとき、ドキっとした。
「いつの間にか、こんなに腰も曲がっちゃってねえ、何をやるにも人の手を借りるようになっちゃって…。こんなおばあちゃんは本当に役立た…。」
「そんなことないよ!?」
おばあちゃんが言い終わるのを待てずに、口から言葉が飛び出した。
「そんなことないよ。さゆりはおばあちゃんがいてくれるだけで嬉しいよ。だからもう死ぬなんてこと言わないで?これからもずっと長生きしてね。」
おばあちゃんは「おや、そうかい?」と何度も言っていた。目頭を押さえながらも、なんだか嬉しそうだった。
そしておばあちゃんと私は、花火を見ながらいろいろな話をした。
「おばあちゃんが百歳になったらお祝いにまたディズニーシーに来ようね。」「そうだねえ。」「じゃあ一〇七歳になったら入学式だね。」「おばあちゃん、ランドセル欲しいなあ。」「何色?」「やっぱり金色かねえ。でもそんなに生きられるかなあ。」「じゃあ…約束ね。」私はおばあちゃんの目を見て言った。
「金のランドセルをおばあちゃんにプレゼントできるように、さゆり大人になったら一生懸命仕事するからね。そのために今は、学校頑張らなくっちゃね。だから、おばあちゃんは、もっともっと長生きしてね。」
そして指切りをした。私が小さかった頃、おばあちゃんが私によくやってくれたように。
あの日からもう六年が経つ。今はもう、足腰の痛み止めがないと生活することができなくなってしまったおばあちゃん。今振り返ってみるとあの夏のディズニーシーがおばあちゃんの最後の遠出になった。おばあちゃんはあの日の写真を励みに毎日を精一杯生きている。だから私も、頑張らないと、ね。