とはいえ、男性は私たち女性と違って、生活必需品と嗜好品の境界線がはっきりしている。嗜好品に挑戦するなら具体的な情報がないと見当はずれになる場合も多い。
無難なのは、飲み物や食べ物だろう。ちょっといいお酒とか手に入りづらい特産品とか季節の珍味とか。私も父の日には、とくこの手を使う。といっても、結局、酒やつまみを一緒に飲んだり食べたりして、贈った感は今ひとつ盛り上がらないのだ。ワインセラーを買ったばかりの頃は、父の好みはほとんど考えず、自分が飲んでみたいワインを贈った、いや、正確に言えば、父の日に一緒に飲んだりもした。
それでも、父はそれなりに喜んでくれていたようだ。勝手な贈り物が通用するのは、家族ならでは、だろう。
これもまた勝手に、飲み物や食べ物だと自分が物足りないと、父が見たがっていた古いフランス映画のDVDをネットで探したりもした。観賞後、私も母も「ふうん」という感想で、父だけがしきりに喜んでいた。
外出用のシャツを贈ったこともある。ファッション雑誌の編集者をしていたわりには、自分の洋服にあまり関心を見せない父への励ましを込めたつもりだった。(今にして思えず、私ほどの偏った熱意がないだけかもしれない)シャツを選ぶために色や素材の好みを探り、自分の懐があまり痛まない値段の範囲である。一着に決めた。箱から取り出した際は好印象だったけれど、煙草とライターを入れるポケットがない、という理由でそのシャツはほとんど着られることがなかった。
いわれてみれば、父の煙草やライターはいつも胸ポケットに仕舞われている。がっかりすると同時に、父なりのルールを知って新鮮な気持ちにもなった。無頓着に見えて、一応のこだわりは持っているらしいのだ。
親子間での贈り物は、あまりかしこまらず、贈った後の反応を率直に表せるぐらいがちょうどいいのではないどろうか。肯定も否定も含めて。それが、お互いの関係のパロメーターという気がする。