家の南側の畑地、そこは、菜園面積は小さく、物置や焼却炉なども置いている。回りは田が広がり、空もぐんと見渡せる場所である。
いつものように、ごみ箱を抱え、勝手口から出た時、焼却炉のヘリに横たわる、何やら白い物体に、足が止まった。「ワッ」と、小さな声を上げたので、ムクッと起き上がり、こちらを向いた。体格のいい成犬である。驚いたのと、見知らぬ犬への恐さとで、一瞬、膠着した状態で対面する。おとなしそうな目をして、少し頭を傾けて、じっと私を見る。白っぽい毛は汚れがひどく、ガサガサになっている。首輪はない。尾は、警戒してか、だらんと垂れている。その様子から、飼い主がいないことが窺えた。
「どこから来たん? 帰る所はあるん?」
と、話しかけているうちに、急に胸の奥が熱くなり、涙が出た。それは、途中からの「放浪生活」に、哀れを感じたのもあるが、その犬は、二年前に亡くなった愛犬と顔がよく似ていた。瞬間だが、だぶって目に映り、感情をどうしても押えられなかった。
少し近づくと、さっとあぜ道へ逃げ、そして、アスファルトの道を、小走りで去って行った。気紛れに立ち寄ったのだろうと思いながらも、ずっと後姿を見送った。
だが、予想に反して、次の日も次の日も、ふらーっと、例の場所にやって来て、横になっているのである。まるで、居住場所が決まったかのように。もう、放っておけなくなった。この時点で、懐けばわが家で飼おうという覚悟が、私にはできていた。食べ物を与えるようになると、だんだん距離が縮まった。
あの日から約一ヶ月。遂に、私達に心を許す。尾を、クルッと上に向け、地面に寝ころんでお腹を見せ、甘えてきた。
「犬は、もう飼わないよ。」と、言っていた娘が、一番嬉しそうにする。さっそく、きれいに毛を洗ってやった。真新しい首輪が引き立つ。名前は、「モモコ」に決まる。
幾日か過ぎた頃、また一つ感動的な出来事が加わる。出産が近い事に気づく。ダンボールの箱を用意し、バスタオルを敷いてやると、すぐ中に入った。夜中、陣痛がピークに達する。この時、家族は、初めて犬の出産に立ち会う体験をしたのであった。
現在、わが家には、「メリー」という名前の小犬もいる。外から帰ると、親子で尾を振って、跳び上がって喜んで、出迎えてくれる。母親になって、益々、板についた番犬ぶり。
「モモコは、何年も前からおるような気がするなぁ。」と、主人が言う。庭で、仲良くじゃれ合う親子を見ながら、これでよかったのだ、と私は心の中で思った。
舞い込んで来たもの、それは偶然ではなく引き寄せた何かがあったのかもしれない。