返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日语随笔集 » 正文

「くそべえ」

时间: 2017-04-21    进入日语论坛
核心提示: 長年、手元から離さず、飽きもせず読み続けたくそべえ。余りにも汚れてぼろぼろになったくそべえを取り替えるために真新しいも
(单词翻译:双击或拖选)
 長年、手元から離さず、飽きもせず読み続けた‘くそべえ’。余りにも汚れてぼろぼろになった‘くそべえ’を取り替えるために真新しいものを届けた。その直後、母は呼吸困難に陥り、入所していた特別養護老人ホームから市民病院に入院した。母、九十八歳。その時には、すでに意識は失われていた。
 私は、多趣味である。特に川柳が好きで三十歳頃から新聞投稿を中心に作句していた。入選作も二百句を超えていたので、還暦を記念して一冊の作品集を生きた証として、自費出版することを思いついた。題名が先ず閃いた。‘くそべえ’にしよう。亡父と確執があった思い出のことば。教師経験のある父は、ひとつの事を究める者を好んだ。反対に私はあらゆるものに興味を持ち、片っ端から挑戦した。悪く言えば飽き性、良く言えば好奇心旺盛だった。そして、屡父と言い争った。父は、私を‘くそべえ’と言って罵った。つまり、糞蠅(くそばえ)が岡山弁では‘くそべえ’となる。糞蠅は糞を求めて次から次へと移動する。ひとつの事に集中出来ない、という意味である。
 私の意図する作品集は、川柳が中心ではあるが、詩もあれば漫画もある。そこで思いついた題が‘くそべえ’なのである。母は、その時米寿の八十八歳。父亡き後、三代続いた酒類小売業とたばこ、その他食料品、雑貨の店を一人で営んでいた。その合間に、亡き父から書道教室を受け継ぎ、子供から大人までの幅広い年齢層の人たちを教えていた。ここは得意の筆を愛息のために奮ってもらわなければならない。
 自費出版の経緯を話して、「題号は、‘くそべえ’にしようと思よんじゃ」と揮毫を頼むと「そりゃ、いけん。もうちょっとましな題はねえんか?そねえな、変な題なら書けん」と言い張る。「この題がわしの集大成を表しとるんじゃ、何とか書いてくれえ」と頼み込んで、仕舞いには、しぶしぶ乍らも素晴らしい変体がなで書いてくれた。
 刊行後、いの一番に‘くそべえ’を母に届けた。あんなに反対した題号‘くそべえ’にも満更でもない風である。以来、母は‘くそべえ’を絶対に手元から離さなかった。来店の客に次々と見せて自慢した。また、私が帰郷すると、‘くそべえ’を開き、自分の気に入った句を何度も朗読する。そして、最後には必ず「あとがき」の自分の事が書かれた部分「何よりも還暦の息子の事が未だに心配な米寿の母が、本書の出版を喜んでくれている。本書の題名も得意の筆で、揮毫してくれた。いつまでも元気でいて貰いたいものである」を指でなぞりながら「信哉がこんな事を書いとる」と何回も何回も読み上げるのである。母の最もお気に入りの所である。
 読んで読み尽くしてぼろぼろになった幸せの‘くそべえ’を棺の中の母の胸に置く。母にとってはベストセラーの‘くそべえ’の新品を更に一冊胸に供えた。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%