そんな愛情を感じて育った僕も思春期に入り、成長するとともに、気が付けばお母さんと手をつなぐことが全くなくなった。温もりなんて少しずつ薄れ始めていた。いや、今想えば忘れてしまっていたのだろう。
こんな僕でも大人になった。普通の大学を出て、普通のサラリーマンになった。ありがたいことに、掛けがえのない女性にも出逢えた。新しい生命も授かった。一番大騒ぎしていたのはお母さんとお父さんだった。
風の冷たいある冬の平日、代休を取っていた僕は、夕方に妻と一緒に息子を迎えに幼稚園に迎えに行った。恥ずかしながら、迎えに行くなんて初めての事だった。息子は妻とてをつなぎ、今日の出来事を楽しそうに話す。
妻は「うん、うん」とうなずきながら話を聞く。僕はその光景に懐かしさを覚えた。妻の手が母と重なった。思わず涙が出そうになった。思わず手つなぎに参加した。そしてお母さんと同じ温もりを感じた。不思議と息子がうらやましく感じた。
「お母さんと手をつなごう」次は僕から愛情を届ける番だ。この先、年をとる度に、体も思うように動かなくなるだろう。僕が手をつないで支えよう。今まで受けてきた大きな大きな愛情と温もりをそのまま感じてもらえるように、いつまでもずっと。
僕はこれからも妻と息子と生きていく。成長していく息子を見守りながら、いつかまた妻と手をつないでくれるその日まで。