小柄な体格でしたが屈強で溶接一筋の元祖ガテン系。
がさつで見てくれなど一切気にせず、一年中くたびれたジャージの上下を愛用しており、それが外出着でもありました。
その昔、父は町内会の団体旅行に参加したことがありました。
記念の集合写真をふと見ると、無理苦理に出っ歯を押し込み口を閉じ、不自然な表情で他人のような父がいるではありませんか!!
ちょうど里帰りで、母を囲み賑やかな顔ぶれが揃う茶の間は、その写真で打ち上げ花火のように弾け、皆、涙が目尻に溜まるほど笑いこけたのです。
無頓着と決めつけていましたが、意外にも劣等感を待ち、父なりに世間の目を意識している事が判明し非常に驚いたものです。
父は平成8年に亡くなりましたが偶然だったのでしょうか。
その時の写真は葬儀の遺影にも使われ、今も実家の仏壇に鎮座しているのです。
お線香を手向ければ自動的に目線の先には父がいます。
『俺ァ、シャッター閉めたんかな』と不本意ながら呟いているようなよそゆき顔も口元を見る度、
『父ちゃん、無理しちゃってェ』
と、胸の中でツッコミを入れるのです。
本当は野方図に大口をあけ、腹の底から笑うのを家族の誰もが知っているから。