父は私のことが好きではないのだろうか…。
2007年春、私は第一志望の大学に合格し、上京することになった。大学一年前期は、とにかく色々なことが目に新しくて、楽しくて、時間は矢のようにはやく過ぎ去っていった。 あっという間に夏休みが到来し、数日間、実家に帰省する事にした。
久しぶりに実家のドアを開けて驚いたことがある。あの父が、満面の笑みで「おかえり」と声をかけてきたのだ。これは事件だった。少なくとも私にとっては事件だ。私はなんだかむず痒い気持ちになって、少々ポカンとしていた。父がその場を去ったあと、母が「お父さんの書斎を見てごらんよ」とにやにやしながら声をかけてきた。父の書斎をこっそりのぞくと、私の通う大学から送られてきたのであろう大学情報誌や、学部報が机の上に積まれていた。その光景を見て、なんだか心が締め付けられるような思いがした。父は私に関心が無かったわけではない。ただ、娘とのうまい関わり方がわからなかっただけなのだと確信した。今までは私もただ、無口な父を客観的に見ているだけだったのだが、久しぶりに実家に帰ってきた娘の姿を見て満足そうに微笑む父の姿を見て、私からも父に歩み寄ってみようという気になった。沈黙の18年を、これからでもいい、取り戻していこうと思った。