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言葉をください09

时间: 2020-05-15    进入日语论坛
核心提示:迷子拾うてその子が私のスカートを掴んだのは大阪万国博覧会跡地の公衆便所の中だった。手を洗っていてふと、その子と目が合った
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迷子拾うて

その子が私のスカートを掴んだのは大阪万国博覧会跡地の公衆便所の中だった。手を洗っていてふと、その子と目が合った。ニコッと赤いセーターが笑い、私も笑い返したのであったが、なぜこの女の子が私になつくのかわからない。
そもそもこの子は何処から来たのか。
五歳にはまだ遠い四歳か三歳の半ばか。私は手をつないで外へ出た。見渡したが子供を捜しているらしい人は見えず、子供も親を求めようとはせず、ただしっかりと私のスカートを掴んでニコニコしているばかりである。
困ったな、と思おうとしたのだけれど、私は少しも困っていない自分に当惑していた。
「この子といっしょに逃げたい」
春風が頬を撫で、ベンチは程よくあたたまっていた。女の子は足をぶらんぶらんさせながらフランクフルトを食べていた。私を見上げては安心しきった足の振りがだんだん大きくなる。
ときどき風が強く吹くと桜の花びらが髪にとまったりした。
「お名前は」
「チーちゃん」
ぴたッとくっついた体温が愛《いと》おしかった。
時間が流れる。誰も捜しに来ない。いっぱいの人波の、ここだけが真空の別世界。私は誘拐犯人の心理がわかるような気がしていた。人の子を攫《さら》うという極悪行為のどこかには、今、私がこの子に感じているような「愛」が存在するのではあるまいか。
私はチーちゃんをおんぶしてその辺を歩きまわった。保安係のような人とすれ違うときビクッとするものが私の心を刺した。もう少し、もう少しこの子との時間をたのしんでから届け出ることにしよう。そう言訳をしながら、ほんとうは次第に返す気を失っていく自分がこわかった。チーちゃんと私は生涯離れない宿命にあるとさえ思いたかった。
よその子の体温がある春の背な
迷子拾うてこれは神の子地におろす
 背中からこの子をおろせば捕手に囲まれるのはわかっていたような気がする。そうしてその通りになった。
何回目かに公衆便所の前のベンチに戻ってチーちゃんを坐らせたそのとたん、母親らしき女がやって来てチーちゃんを連れ去った。何か罵声を聞いたような。けれど、どうしても思い出せない。ただ、その子の顔が初めてベソをかき、小さな手を、いえ正確には赤いセーターの腕をいっぱいに伸ばして私に助けを求めた光景だけが鮮明に残された。
私はその日、鯨を見に行っていたのだった。連れもあった。しかし、チーちゃん以外のことを私は語りたくない。
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