◇ものが二重に見えてしまう子どもが増加
「ものが二重に見えるようです。スマホの使いすぎだと思うのですが……」。浜松市の浜松医科大付属病院では最近、急性内斜視になった子どもを連れてくる親が目立つようになりました。もともと未成年に多い症状ですが、年間2~3人ほどだった患者数は3年前から10人前後で推移しているそうです。
主な症状は、両目の視線が一致せず、ものが二重に見えてしまう「複視」で、遠近感をつかんだり、立体感を捉えたりすることが難しくなります。一般的に脳の異常やストレス、強い近視などから突然発症するとされますが、近年はスマホやタブレット端末などのデジタル機器が引き金になっているのではないか、と疑われています。
国立成育医療研究センター(東京)のグループは昨年1月、急性内斜視を発症したり、悪化させたりしたことで2014~16年に同センター眼科を受診した6~17歳の7症例を分析した論文を発表しました。
◇研究機関「スマホやタブレットの過剰使用が原因かも」
いずれの患者も毎日3~4時間以上、スマホや携帯ゲーム機、タブレット端末を使っていたといいます。論文は「ICT(情報通信技術)機器の過剰使用で斜視の発症や増悪(悪化)をきたす可能性がある」と指摘しました。
日本弱視斜視学会も日本小児眼科学会と協力し、昨年12月末から全国の医師約1000人を対象とする調査を進めています。急性内斜視の患者を診たことがある場合、その患者がデジタル機器を長時間使っていたかどうかなどを尋ね、6月中旬の学会総会で結果を報告する予定です。
では、デジタル機器を長時間使うと、なぜ片目が内側に寄るのでしょうか。
日本弱視斜視学会理事長で、浜松医科大病院教授の佐藤美保医師(小児眼科)によると、小さい画面のデジタル機器は顔を近づけて見ることが多く、ピントを合わせるために寄り目になってしまうといいます。その状態を長時間続けることで、利き目ではないほうの眼球が元に戻りづらくなることが考えられるそうです。
自然に治るケースは少なく、重症化すれば手術が必要です。また、両目でものを立体的に捉える脳の機能は5歳ごろに完成するため、それまでに複視の症状が表れると、運動能力の発達が阻害される可能性もあるので特に注意が必要だそうです。
佐藤さんは「子どもの患者が多いのは、自由な時間が長いうえ、大人より目が疲れにくく、近くにピントを合わせる力も強いためではないか」と推測します。そのうえで、「斜視とデジタル機器との因果関係を早急に明らかにする必要があります」と指摘しています。
◇専門家「目を30センチ以上離し、30~40分に一度休憩を」
では、デジタル機器を使う際、どんなことに注意すればいいのでしょうか。
大阪大大学院生命機能研究科の不二門(ふじかど)尚(たかし)特任教授(眼科学)は、書籍は目から平均約30センチの距離で読まれますが、スマホの文字は拡大しない場合、平均約20センチにとどまるとの報告を引用しながら、「20センチだとピントを合わせる負担が大きすぎる。デジタル機器も意識して、(目から)30センチ以上離すべきです」と警鐘を鳴らしています。
実際、韓国の研究機関が7~16歳の急性内斜視患者12人を調べ、16年に公表した論文によると、全員が日常的に30センチ以下の距離でスマホ画面を見ていたそうです。
目をデジタル機器に近づける原因になる「近視」の予防も、効果的です。不二門さんによると、30分以上続けて読書をするグループは、そうでないグループより1.5倍近視になりやすいとの報告があります。より長く屋外で活動するほうが近視の進行を抑えられることも分かっています。
そのため、「デジタル機器を使う時も30~40分に1度は目を休め、外で遊ぶ時間を増やすことが有効です」と呼び掛けています。