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こまどりと酒(1)

时间: 2022-11-01    进入日语论坛
核心提示:こまどりと酒小川未明夜よるおそくまで、おじいさんは仕事しごとをしていました。寒さむい、冬ふゆのことで、外そとには、雪ゆき
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こまどりと酒

小川未明


よるおそくまで、おじいさんは仕事しごとをしていました。さむい、ふゆのことで、そとには、ゆきがちらちらとっていました。かぜにあおられて、そのたびに、さらさらとおとをたてて、まど障子しょうじたるのがきこえました。
いえうちに、ランプのは、うすぐらくともっていました。そして、おじいさんが、つちでわらをたたおとが、さびしいあたりに、おりおりひびいたのであります。
このおじいさんは、たいそうさけきでしたが、まずしくて、毎晩まいばんのように、それをむことができませんでした。それで、夜業よなべに、こうしてわらじをつくって、これをまちりにゆき、かえりにさけってくるのをたのしみにしていたのであります。
野原のはらも、むらも、やまも、もうゆきしろでありました。おじいさんは、毎晩まいばん根気こんきよく仕事しごとをつづけていたのであります。
こう、ゆきっては、となりひとはなしにやってくるには難儀なんぎでした。おじいさんは、しんとしたそとのけはいにみみかたむけながら、「また、だいぶゆきもったとみえる。」と、ひとりごとをしました。そして、また、仕事しごとをしていたのであります。
このとき、なにか、まど障子しょうじにきてきあたったものがあります。ゆきのかかるおとにしては、あまりおおきかったので、おじいさんは、なんだろうとおもいました。
しかし、こうした大雪おおゆきのときは、よく小鳥ことりまよって、あかりをてやってくることがあるものだと、おじいさんはっていました。これはきっとすずめか、やまがらが、まよってんできたのだろう。こうおもって、おじいさんは、障子しょうじけてみますと、くらそとからはたして、一小鳥ことりがへやのうちにんできました。
小鳥ことりは、ランプのまわりをまわって、おじいさんが仕事しごとをしていたわらのうえりて、すくんでしまいました。
「まあ、かわいそうに、このさむさでは、いくらとりでもこまるだろう。」と、おじいさんは小鳥ことりちかづいて、よくそのとりますと、それはうつくしい、このあたりではめったにられないこまどりでありました。
「おお、これはいいこまどりだ。おまえは、どこからげてきたのだ。」と、おじいさんは、いいました。
こまどりは、にいるよりは、たいてい人家じんかわれているようにおもわれたからです。おじいさんは、ちょうどかごのいているのがありましたので、それをしてきて、くちひらいて、小鳥ことりのそばにやると、かごになれているとみえてこまどりは、すぐにかごのなかへはいりました。
おじいさんは、小鳥ことりきで、以前いぜんには、いろいろなとりった経験けいけんがありますので、ゆきしたから青菜あおなってきたり、川魚かわざかないたのをすったりして、こまどりにつくってやりました。
こまどりは、すぐにおじいさんにれてしまいました。おじいさんは、自分じぶんのさびしさをなぐさめてくれる、いい小鳥ことりうちにはいってきたものとよろこんでいました。
くるから、おじいさんは、こまどりにつくってやったり、みずをやったりすることがたのしみになりました。そして太陽たいようが、たまたま雲間くもまからて、あたたかなかおつきで、れしくこのしろなかをながめますときは、おじいさんは、こまどりのはいっているかごをひなたにしてやりました。こまどりは不思議ふしぎそうに、ゆきのかかったそと景色けしきを、あたまかたむけてながめていました。そしてれて、またあたりが物寂ものさびしく、くらくなったときは、おじいさんは、こまどりのはいっているかごをいえなかれて、自分じぶん仕事場しごとばのそばのはしらにかけておきました。
二、三にちすると、こまどりは、いいこえきはじめたのであります。それは、ほんとうに、ひびきのたかい、いいこえでありました。
おそらく、だれでも、このこえいたものは、おもわず、あしをとどめずにはいられなかったでしょう。おじいさんも、かつて、こんないいこまどりのこえいたことがありませんでした。
あるのこと、酒屋さかや小僧こぞうが、おじいさんのいえまえとおりかかりますと、こまどりのこえいてびっくりしました。それは、主人しゅじん大事だいじに、大事だいじにしていた、あのこまどりのこえそっくりであったからです。主人しゅじんのこまどりは、ゆきあさ子供こどもがかごのけてがしたのでした。
「こんなに、いいこえのこまどりは、めったにない。」
と、主人しゅじん平常へいぜい自慢じまんをしていました。そのとりがいなくなってから主人しゅじんは、どんなに落胆らくたんをしたことでありましょう。
「どこへ、あのとりは、いったろう。」と、主人しゅじん朝晩あさばんいっているのでした。
小僧こぞうは、おもいがけなくこのこまどりのごえを、みちとおりすがりにきましたので、さっそく、おじいさんのうちへやってきました。
「おたくのこまどりは、まえからおいになっているのでございますか?」と、小僧こぞうは、たずねました。仕事しごとをしていたおじいさんは、あたまって、
「いや、このこまどりはゆきる、さむばんに、どこからか、まどのあかりをんできたのだ。きっとどこかにってあったものがげてきたとおもわれるが、小僧こぞうさんになにかこころあたりがありますか。」と、おじいさんはいいました。
小僧こぞうは、これをいて、
「そんなら、わたしうちのこまどりです……。」と、かれは、ゆきに、子供こどもがしたこと、主人しゅじんがたいそうかなしがって、毎日まいにちいいらしていることなどをはなしました。
おじいさんは、はしらにかかっているこまどりのかごをはずしてきました。
「このこまどりに見覚みおぼえがあるか。」と、小僧こぞうに、たずねました。
小僧こぞうは、自分じぶんが、朝晩あさばんをやったり、みずえてやったこともあるので、よくそのとりおぼえていましたから、はたして、そのこまどりにちがいないか、どうかとしらべてみました。すると、その毛色けいろといい、ようすといい、まったくおなとりでありましたので、
「おじいさん、このとり相違そういありません。」といいました。
「そんなら、はやく、このとりってかえって、主人しゅじんよろこばしてあげたがいい。」と、おじいさんはいいました。
小僧こぞうは、正直しょうじきなやさしいおじいさんに感心かんしんしました。おれいをいって、こまどりをもらって、うちからかけますと、そとはしら酒徳利さけとくりがかかっていました。それは、から徳利とくりでありました。
「おお、おじいさんは、さけきとみえる。どれ、主人しゅじんはなしをして、おれいに、さけってきてあげましょう。」とおもって、小僧こぞうは、そのから徳利とくりをも、いっしょにうちってかえりました。
主人しゅじんは、いっさいのはなし小僧こぞうからいて、どんなによろこんだかしれません。「おじいさんにこれから、毎日まいにち徳利とくりにおさけれてってゆくように。」と、小僧こぞうにいいつけました。
小僧こぞうは、徳利とくりなかさけれて、おじいさんのところへってまいりました。
「おじいさん、はしらにかかっていた徳利とくりに、おさけれてきました。どうか、めしあがってください。」といいました。
おじいさんは、よろこびましたが、そんなことをしてもらってはこまるからといいました。
わたしは、まちへわらじをっていってかえりにさけおうとおもって、徳利とくりを、はしらにかけておいたのだ。」と、おじいさんはいいました。
小僧こぞうは、主人しゅじんのいいつけだからといって、さけのはいっている徳利とくりをまたはしらにかけて、
「おじいさん、さけがなくなったら、やはり、このはしらに、から徳利とくりをかけておいてください。」といいました。
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