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不思議な鳥(2)

时间: 2022-12-10    进入日语论坛
核心提示:二最初この小鳥の色は黒かった。ちょうど雀のような形でそれよりも黒かった。この小鳥を見た人は、誰でも、「黒い鳥。」といった
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最初この小鳥の色は黒かった。ちょうど雀のような形でそれよりも黒かった。この小鳥を見た人は、誰でも、
「黒い鳥。」といった。
この黒い鳥を私が貰ったのは、寒い冬の日であった。しかも吹雪ふぶきの募った頃である。山に居るの鳥もなくなって、里にいる雀ですら、軒下の標縄しめなわに止って凍えかかっていた。家のうちにいては暗く、反古紙ほごがみで張った高窓に雪やあられの当る音がした。そのたびに高窓を見上げていると、一日こうやって怠屈たいくつに送るのが物憂ものうかった。何かして遊びたいと思ったが、誰も訪ねて来るものがない。時計が三時を打った。
「ああ、もうじき日が暮れるのか……。」
私は黒い柱にかかった、古風の大きな八角時計を見上げた。縁の金色が、わずかに鈍い灰色の空気に光って、じっひとみを移さずに白い円盤を見詰みつめていると、長い針は遅々ちちと動いて、五分過ぎた。目に見えぬうちに時間のたって行くのが何の訳なく気を焦立いらだたした。
「出て見よう、家に居たってつまらん。」
こう思い決めると、何様どんな困難があっても、吹雪をおかして外を歩いて見たい好奇心が矢の如く心を駆った。早速深く編み上げた藁靴わらぐつ穿いて、雪で吹き閉された戸を開けて外へ出た。一陣ひとしきり大きな雪片せっぺんが風にあおられてたんぼの方から走って来た、立っている自分の胸はたちまち白壁のように真白になった。たださいわいに大きな吹雪はこれりで後は少し晴間となった。空は飽迄あくまで灰色であった、三尺ばかり上は灰色の厚い布で張詰られているような気がした。外へ出たが誰をたずねて見ようという考えは別になかった。この時、彼方の寺の栗林でひよどりが沢山来ていているのが聞えた。で、早速家へ引返して二連発の猟銃を持って寺の林へ急いだ。
道は雪にうずまって分らなかった。人の影を見ない。木立こだちは雪をて重げである。空濠からぼりも雪に埋っていた。私は、この大きな陰気な空濠を廻って寺の墓地に入った、杉の木からは絶えず雪が崩れて落ちた。その毎に身動きをしない、重苦しそうな枝の一部分だけが動いた。見渡すと五六寸ばかり頭の現われた墓石が其処そこ此処ここにある。鵯の止っている栗林は夕空に頭を揃えていて、一帯いったいに空気が沈んで、寂寞ひっそりとしていて悲しそうな景色であった。
私は暫らくたたずんで、是等これらの物悲しい、静かな景色を眺めていたが、急に鳥を撃つのは可哀そうだというようなかんじがして、そのまま墓場を出ると普通人の通る村道に出た。
斯様こんな淋しい国に何時いつ迄居られよう。早く快活な国へ――もっと南の暖かな国へ行って住みたいものだ。」
……と考えながら、下を向いて歩いて来ると、突然猟師の息子の吉太きちた出遇であった。吉太は頭からわらを編んだ長い後方うしろに迄垂れ下る妙な帽子を被っていた。れの眼はふくろうのように円く黒く大きかった。頭髪かみのけく縮れていた。彼は十五六であったが余り性質がよくなかった。小学校は中途で退校を命ぜられた。村の子供をいじめて、子供の持っている銭を取上る、町へ出ては商家あきないやの隙をねらって品物を盗んで来る。だからこの吉太を善く言うものはなかった。
「おい吉太、この雪に何処へ行く。」と聞いた。
吉太は藁帽子を片手で少し上げて、眼の好く見えるようにして私を見た。気味の悪いような、また何処かあざけるような笑いをした。
「何か捕れましたかえ。」といった。
「いや、撃つのを止めて帰るのだ。」
「お前は何処へ行く?」
と私は聞いた。
「町へ行くだ。」と彼は、私の銃の砲先つつさきを見ていたが、
おらあ、小鳥を町へうりに行くだ。」
といって、懐から、さも大事そうに、壊れ物でも取出すように握り出した。それははねを包んで、頭を穴から出して逃げないように紙のきものを着せた小鳥であった。
「黒い鳥だな、……何という鳥だ。」と聞いた。
吉太はさも大事そうに、自分の心臓でもてのひらに載せているように、雪焼のした汚らしい手をふるわしていた。で、私の言ったことなどに耳を傾けていなかった。吉太は、こうやっている間にも幾度となく、唇を掌に寄せて暖かな息を鳥に吹かけた。
おれにその小鳥をうってくれないか。」
と、余り珍らしい鳥なものでこういった。けれど私はこの鳥を見た時、好い気持がしなかった。何んだか再び眼から印象の消えない物を見せられたような気がして、急に心持が暗くなるのを覚えた。しかし、この儘、この鳥を他人ひとに渡してしまうのも惜しいような気がしたので、自分でかってみたくなった。吉太は私の顔を見ていたが、
貴君あなたになら売るのは厭だ。」
「何故?」
町へうりに行くのを、何故自分に売るのが厭だろう。吉太の性質が曲っているのを証明するものでないか? それとも町へ行ったら思い切り高く売れるが、知っている人にはそうは行かぬ所から、自分に売るのを厭だというのでないかと思ったから、
「高くかってやるよ。町で売れるより高く買てやる……。」
「貴君にあげるなら、銭はいらないから、わしの欲しいものをおくんなさい。」といった。
「お前が欲しいもんてや、何んだ。」
「欲しいものをおくんなさるか?」と、吉太の声はふるえて、眼が輝やく。
「何だ? やれるものならやる……。」と私は怪しみながらいう。
吉太は黒い鳥をもったまま、考え込んだ。遠いものを追うような眼付をした。いつしか両眼からは熱い涙が湧き出て、涙は彼の頬に流れた。今迄と変って獰悪どうあくげな面構つらがまえが、たちまち見違うように柔和となった。私は、不思議にえなかった……彼にこれ程の感興かんきょうを与えるものを果して自分が持ているであろうか、たとえそれが何であっても、必ず吉太に与えようと心に誓った。
「早く言え、やるから。」と、きっぱいった。吉太は、声を震わしながら、
何時いつか見た、絵具皿を下さい。」
といった。
私には、急にその皿が想い出せなかった。
何様どんな形なのだ。」と聞くと、
「花の形をしているのです。」
と、いって泣いた。
私は吉太の泣くのを始めて見た。斯様悪摺わるずれた悪魔のが、どうして泣くだろうかとも思った。が、又急に可哀そうになって、
「じゃ探して置く、明日の朝来い。」
と、二人は別れた。
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