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太陽と星の下(1)

时间: 2022-11-18    进入日语论坛
核心提示:太陽と星の下小川未明S少年エスしょうねんは、町まちへ出でると、時計屋とけいやの前まえに立たつのが好すきでした。そして、キ
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太陽と星の下

小川未明


S少年エスしょうねんは、まちると、時計屋とけいやまえつのがきでした。そして、キチキチと、ちいさなはりが、ただしくやすみなく、ときをきざんでいるのをて、――この時計とけいは、どこの工場こうばで、どんなひとたちのつくられたのだろう――と、空想くうそうするのでした。
すると、あかるい、清潔せいけつな、設備せつびのよくいきとどいた、近代きんだいふうの工場こうばが、まえかびがります。かれは、いつか自分じぶんも、こんな工場こうばかよってはたらき、熟練工じゅくれんこうになるかもしれないと、おもったりするのでした。こうして、まちは、少年しょうねんにいろいろな、たのしいゆめあたえてくれました。
あるつつじのかどのところへ、あたらしく美術店びじゅつてんができました。しかし、そこには、あたらしいものより、ふるいもののほうがおおかったから、むしろ、こっとうてんというのかもしれません。
ぐちのガラスまどうちには、まるいつぼがおいてありました。
少年しょうねんは、そのふかみのある、あおうみをのぞくようないろに、ひきつけられたのです。
「いいいろだな。」と、そのやわらかなかんじは、なんとなく気持きもちをやわらげました。まだ、なにかあるかと、あたりをまわすと、おくのほうだいに、あかいさらがかざってありました。
これは、なつ晩方ばんがた海面かいめんへ、たれさがるくものように、みずみずとして、うつくしかったので、こんどは、がそのほううばわれてしまいました。なんでも、そのは、中国人ちゅうごくじんらしい、一人ひとりおんなが、あかいたもとをひるがえして、おどっているのでした。
少年しょうねんは、ちかくそばへってたかったのだけれど、えるようなでないから、さすがにその勇気ゆうきがなく、こころのこりをかんじながら、みせさきをはなれたのです。
すこしくると、魚屋さかなやがありました。みせさきのだいうえに、おおきながおいてありました。そのにくいろは、おどろくばかり毒々どくどくしく、赤黒あかぐろくて、かつて、さかなでは、こんなのをたことがありません。
「これは、くじらにくだな。そうだ、南極なんきょくからきた冷凍肉れいとうにくだ。人間にんげんとおなじく、あかちゃんをかわいがる哺乳動物ほにゅうどうぶつにくなんだ。」
こうおもった瞬間しゅんかん、いままでのあたまなかのなごやかなまぼろしはえてしまって、そこには、残忍ざんにんな、なまぐさい光景こうけいが、ありありとかびました。
捕鯨ほげい状況じょうきょうかんがえると、たえられない気持きもちがして、少年しょうねんは、途中とちゅうにあるおかにかけのぼりました。おかうえには、おおきなけやきのがありました。そのに、こしをおろしたのです。ついこのあいだまで、をふいたばかりの新緑しんりょくが、うす緑色みどりいろけむっていたのが、すっかり青葉あおばとなっていました。ここからは、あちらまでつづく、まちほうおろされました。ぴか、ぴかと、せんくごとくながれるのは、自動車じどうしゃでありました。そのかぶとむしのような、黒光くろびかりのするからだに、アンテナをてていて、はしりながら、どこかとはなしたり、また、放送ほうそう音楽おんがくをきいたりするのです。
人間にんげんは、ほかの動物どうぶつのできない発明はつめいをする。もし、おれがくじらだったら、どうして人間にんげんというてきから、のがれることができようか。」と、少年しょうねんは、空想くうそうしました。
もっと、もっと、氷山ひょうざんのおくふかく、安全あんぜん場所ばしょをさがして、はいりこむだろう。いや、それもだめだ、どんなかくれでも、人間にんげんはさぐる。精巧せいこう機械きかいっているし、また、おそろしい武器ぶきっている。そうかんがえると、少年しょうねんには、人間にんげんがひきょうにえました。そして、自分じぶんちからよりほかに、たのむことができないくじらがかわいそうになりました。それはくじらとかぎりません。いのちのとうとさは、つよいもの、よわいもの、べつにかわりがないからです。
少年しょうねんは、なかの、不公平ふこうへいや、不平等ふびょうどうが、つぎつぎにうずまき、あたまがつかれたので、やわらかなくさうえへ、仰向あおむけになってねころび、をふさぎました。太陽たいようひかりは、やわらかなようでも、するどかったのです。をとじていても、まぶしかったのでした。
このとき、みみもとへ、ささやくものがありました。大空おおぞらをわたる、初夏しょかかぜが、くさけるおとでした。
「おごるものは、おごらせておくがいいのさ。かならず天罰てんばつがあたるから。いつ氷河ひょうががやってくるかもしれない。あまり不意ふいで、げるひまのなかった、マンモスのにくが、まだくさらずに、こおりなかからたというではないか。それどころか、今日きょうにでも、太陽たいよう大爆発だいばくはつをしないとかぎらない。そのときは、地球上ちきゅうじょうのものは、ことごとくけてしまうのだ。」
あいづちをうつごとく、どこかの工場こうばから、正午しょうご汽笛きてきりひびきました。少年しょうねんは、これを機会きかいに、おかりたのでした。
つくえまえにすわって、雑誌ざっしていると、ケーくんが、ボールをしないかと、S少年エスしょうねんびにきました。
すぐそとへとびすと、
はたけへ、いこうよ。」と、ケーが、いいました。
このころまで、いえいえあいだ通路つうろとなっている路地ろじしか、子供こどもたちにとって、あそがなかったのを、ようやく、青物あおものまわり、家庭菜園かていさいえんなどというものがかげしてから、ふたたび、いままでのごとく、や、はらっぱが、子供こどもらのにかえったのです。したがって、かれらは、あやまって、まどのガラスをわり、しかられることもなく、たのしく、のびのびとして、ボールがげられるのでした。
まりをげているさいちゅうでした。
ケーちゃん、きみ飛行機ひこうきえる。」と、S少年エスしょうねんは、なにをおもしたか、をやすめて、そらをながめました。
ケーをやすめて、おなじくそらをながめたのです。
おとはするけど、なんにもえないね。エスちゃんにはえる。」と、ケーは、ききかえしました。
「たいへんちかおとがきこえるけど、わからない。よっぽどたかいところをんでいるんだね。」
二人ふたりは、しばらく、ボールをげるのをわすれて、夢中むちゅうで、飛行機ひこうきをさがしていました。戦後せんごかれらの希望きぼううしなわれたので、せめてその姿すがただけでもたかったのです。この瞬間しゅんかんにも、せめておもいきりたかがって、自由じゆうべたらという、あこがれがむねなかを、わくわくさせました。やがて、そらは、石竹色せきちくいろから、オレンジいろわって、れかかったのであります。
すでに、あのときから、はや一週間しゅうかんちかくたったであろうか。少年しょうねんは、あの中国ちゅうごくおんなのおどっている、あかいさらがたくなりました。
散歩さんぽしてこようか。」
まちへくると、いつものごとく、トラック、自転車じてんしゃ自動車じどうしゃはしっていました。さんさんたる太陽たいようが、あらゆる地上ちじょう物体ぶったいひかりなかにただよわせていました。少年しょうねんは、つつじのところをうろつきながら、
「おれはきつねにばかされているんでないだろうな。」と、自分じぶんかっていったのでした。
なぜなら、あのこっとうてんが、いつのまにかなくなって、つからなかったからです。そのかわり、そこが葬儀屋そうぎやとなって、真新まあたらしいかんおけやしろ蓮華れんげ造花ぞうかなどが、ならべてありました。
少年しょうねんは、しばらくかんがんで、りかねていましたが、ねんのため、魚屋さかなやまえとおってみました。すると、魚屋さかなやは、まえとおなじところにあって、だいはかわいて、もうそのうえには、くじらにくあたりませんでした。
かれは、いえかえると、このはなしにいさんにしたのであります。
「あんまりのわりかたで、ぼく、きつねにばかされたのでないかとおもった。」
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