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春になる前夜(2)

时间: 2022-12-08    进入日语论坛
核心提示:みんなは、背中せなかに負おっている荷物にもつを下おろしました。そして、雪ゆきの上うえに拡ひろげて、徳利とくりに入いれて下
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みんなは、背中せなかに負おっている荷物にもつを下おろしました。そして、雪ゆきの上うえに拡ひろげて、徳利とくりに入いれて下さげてきた酒さけをついで、めいめいが飲のみはじめました。みんなは、いくら寒さむくても、酒さけの力ちからで体からだがあたたまりました。すると、おじいさんは、
「さあ、みんなで歌うたうだ! 弾ひくだ! この世よでのしおさめに、力ちからのかぎり出だしてやるのだ。そして、くまも、おおかみも、山やまも、谷たにも、野原のはらも、心こころあるものを、みんなびっくりさしてやれ!」と、みんなを励はげましていいました。
やがて、ときならぬいい音色ねいろが、山奥やまおくのしかもさびしい野原のはらの上うえで起おこりました。笛ふえの音ね、胡弓こきゅうの音おと、それに混まじって悲かなしい歌うたの節ふしは、ひっそりとした天地てんちを驚おどろかせました。おじいさんは雪ゆきの上うえにすわって音頭おんどをとりました。若わかい女おんなと、若わかい一人ひとりの男おとこは立たって踊おどりました。一人ひとりの男おとこは、やはり、雪ゆきの上うえにすわって胡弓こきゅうを弾ひいていました。女おんなはいい声こえで歌うたい、立たって踊おどっている男おとこは、片脚かたあしを上あげて、唇くちびるに笛ふえを当あてて吹ふいていました。
雪ゆきは、いつしかやんで、月つきの光ひかりが、この下したのときならぬ舞踏会ぶとうかいをたまげた顔かおをしてながめていますと、いままで隠かくれていた星ほしまでが、三つ、四つ、しだいにたくさん顔かおを出だして、空そらの遠方えんぽうからこの有あり様さまをのぞいていたのです。
木きの枝えだに止とまって、すべてのことを知しりつくしていたすずめは、悲かなしくて悲かなしくて、たまらなくなって、熱あつい涙なみだが目めからあふれて出でました。しかし、そのときの寒さむさというものは一通ひととおりでなくて、目めから出でた涙なみだは、すぐに凍こおって両方りょうほうの目めはふさがってしまいました。すずめは足あしをあげて目めをぬぐおうとしましたが、このときは、はや両方りょうほうの足あしが枝えだの上うえに縛しばりつけられたように、凍こおりついて離はなれませんでした。
すずめは、つくづく寒気かんきというものを情なさけなしな、冷酷れいこくなものだと思おもいました。月つきも、星ほしも、また雪ゆきまでも、ああして感心かんしんして哀あわれな歌うたをきき、音楽おんがくに耳みみを澄すましているのに、寒気かんきだけが用捨ようしゃなく募つのることを、すずめは腹はらだたしくも、またかぎりないうらめしいことにも思おもったのです。
そのうちに、どうしたことか、歌うたの声こえも、音楽おんがくのしらべも、だんだん小ちいさく、低ひくく、遠とおのいてゆくのを感かんじました。けれど、すずめは、ついに明あくる日ひの朝あさまで身動みうごきもできず、目めを開あけることもかなわず、鋳物いもののように木きの枝えだに止とまっていました。
太陽たいようが照てらしたときに、すずめは、はじめてあたりのようすを知しることができたのです。
「昨夜ゆうべのことは、みんな夢ゆめではなかったか、あの人ひとたちは、どうなったのだろう?」と、すずめは、小ちいさな頭あたまを傾かたむけて思おもいました。なぜなら、あたりは、雪ゆきが二尺しゃくも、三尺じゃくも積つもっていて、そのほかには、なにも目めの中なかに入はいらなかったからです。
それからは、長ながい間あいだ、すずめは、このことが不思議ふしぎでならなかったのです。すずめは毎日まいにち、雪ゆきの中なかを山やまのあちらへ、また、林はやしのこちらへと飛とびまわって、だれも通とおらない、さびしい雪ゆきの広野ひろのを見渡みわたして鳴ないていました。
そのうちに冬ふゆも老たけて、だんだん春はるに近ちかづいてまいりました。ある日ひのこと、西南にしみなみの空そらのすそが、雲切くもぎれがして、そこから、なつかしいだいだい色いろの空そらが、顔かおを出だしていました。すずめは、木きの枝えだに止とまって、じっとその方ほうを見みてぼんやりとしていました。
暖あたたかな南みなみの風かぜが吹ふいてきました。それからというもの、毎日まいにちのように、南みなみの風かぜが吹ふき募つのって、雪ゆきはぐんぐんと消きえていきました。すずめは、もう冬ふゆも逝いってしまうのだと、体からだを円まるくして、心地ここちいい、暖あたたかな風かぜに羽はねを吹ふかれながら、いままで埋うもれていた山やまの林はやしや、また野原のはらの木立こだちが、だんだんと雪ゆきのなかに姿すがたを現あらわしてくるのを楽たのしみにしていたのです。
「ああ、じきに花はなが咲さくころともなるだろう。そうすると、他国たこくの方ほうから、名なの知しらないような美うつくしい鳥とりが飛とんできて、林はやしや森もりの中なかで唄うたをうたうであろう。それを聞きくのがたのしいことだ。」と、この山やまのふもとに生うまれて、この野原のはらと、林はやしとしかほかのところは知しらないすずめは、せめて他国たこくの鳥とりの唄うたを聞きくことを幸福こうふくに思おもっていたのです。
すると、ある暖あたたかな晩ばんに、すずめは野原のはらの中なかから、笛ふえの音ねと、胡弓こきゅうの音おとと、悲かなしい唄うたの声こえを聞ききました。すずめは、それを聞きくとびっくりしました。いつかの哀あわれな旅楽師たびがくしを思おもい出だしたからです。
いままで、その野原のはらの中なかに凍こおっていた、それらの音色ねいろが、南みなみの風かぜに解とけて、流ながれ出だしたものと思おもわれます。しかし、その人ひとたちの死骸しがいは、飢うえたおおかみやくまに食たべられたか、見みつかりませんでした。ただ、この物悲ものがなしい音色ねいろは、風かぜに送おくられて、その後のち、幾夜いくよも、この広野ひろのの空そらを漂ただよっていたのです。
 
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