三
雪の上は一面に鈍い光を放って、空は次第に暗くなった。刻々に空は下へ下へと押え付けるような感じがした。
しかし、又何となく吉太が可哀そうな気持もした。
「あんな悪い児の鳥を貰っていいだろうか?」
と、いうような
「そうだ、あの黒い鳥が来ると、家の者が病んで死ぬのでないか?」と、身が寒気を催した。
「あの黒い鳥を監獄の中で見たようだ。」……雪の上に立止った。自分は生れてから監獄の中へ入って見たことがあろうか……一度でも行って見たことがあったろうか。
「何か悪いことをしたことがあったろうか?」
「何か人の物を
「全く覚えがない!」
けれどこの黒い鳥を見たことがあるようだ……それは幼ない時分であった。日蝕の日に斯様黒い鳥が沢山、空を廻っていたような気がする。何んでも黄色な暗くなった空に、驚いて怪しな声で、ぐるぐると輪を
「この日蝕はいつまでつづくだろう……。」と私は気を揉み始めた。幾日もこの儘であったら、人は
「あの、鳥は何という鳥でしょうね。」
と、隣でいっている声がした。
「燕でしょうか?」と、誰かいう。
「燕にしては、啼声が違うや。」と、これは子供の声である。
「不思議な鳥が出たものだな。」と、老人の声がする。
「大変に暗くなりましたね。」と、女の声だ。
「厭な啼き声だこと。」
「あの黒い鳥。」
「幾羽居るだろう……。」
などという声がした。
* * *
空は
「あの黒い鳥を貰ってもいいだろうか。」……吉太が可哀そうだというような考えも起った。
その晩は何となく暗い思いがしたが、