四
「これか?」といって私は、棚の上から
「黒い鳥だな。」と、いった。
吉太は、はや帰りかけていたが、この時振り向いて、
「
籠は極めて粗末なものであったが、中には青い色の
けれど、いつも同じい戸口の柱に懸けて置いて見慣れるに従って、いつしかこの鳥は私に親しんだのである。やがて冬は過ぎた。
小鳥は籠の中から、この春の
この鳥を逃してやろうか知らん。と、幾度思った時があったか知れない。けれど又何となくこの鳥を
或年、祖母が死んだ。その時、親類の者共が寄り集った。その中で婆さん達が、この鳥を逃してやれといった。その時、私は鳥籠の前に立って、
「成程、あの時吉太は毛が変るといったが、
「吉太は、あの絵具皿を何にするだろう。」
と、その当時に遡って考えた。私は、こう思った。あんな少年は何んでも人の持っているものが欲しくなるものだ。殊に彼の性質からでは、一旦欲しいとなったら、
この時、がやがや家の中が
葬式の
「おお、早く逃げて行けよ。」と叔母は泣かんばかりに言った。
鳥は
「逃げて行けよ。」といったが、鳥は二度と籠の戸口から出なかった。
「もう翼が利かないのだ。こうなってはやはり籠の中に
人間だってそうじゃないか? 女が嫁に来て束縛されて、皆なこの叔母の如くなってしまう。而してこの時、過去を顧みて格別残念とも何とも思わず、これが
夕月が出て、ほんのりと鳥籠の上を照した。家の
五
或日、私は図書館に入って、
……私は肉食鳥でありながら、
而して、その書には黒い鳥の姿が書いてあった。よく似ていたが別にその毛が変って赤くなるということは書いてなかった。私は、若しや、この鳥でない、自分の飼って居った鳥は他の鳥でないかと思って、
私が国を出る時、車屋の老夫婦が大事にして、可愛がって