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北海の波にさらわれた蛾(3)

时间: 2022-12-24    进入日语论坛
核心提示:あるときは、百姓しょうらが焚たいている野火のびが、真紅まっかな花はなの風かぜになびいている姿すがたとなって見みえたりして
(单词翻译:双击或拖选)
 
あるときは、百しょうらがいている野火のびが、真紅まっかはなかぜになびいている姿すがたとなってえたりして、そのなかんで、ながたびをつづけたすえに、むなしくんでしまった仲間なかまもあります。また、まちかがやいた火影ほかげに、つい誘惑ゆうわくされて、りんごのはないましめもわすれて、んでいくと、そこにはいい音楽おんがくこえたり、うたこえがしたり、ほかにうつくしいとうや、噴水ふんすい銅像どうぞうなどがあったり、また花園はなぞのさえあったりしたので、うかうかと時間じかんごしてしまって、みんなからはなれてしまったものもあります。
しかし、根気強こんきづよれは、翌日よくじつも、そのまた翌日よくじつも、たびをつづけました。そして、ひろ野原のはら横切よこぎり、あるときは、やまいただきえて、ついに、なつのはじめのころには、はるかに、あおい、あおい、北海ほっかいえる地方ちほうたっしたのでした。
「とうとううみへきた。」
わたしたちのゆく、うつくしいしまは、どこだろうか?」と、たちは、よろこんでさけびました。
「このうみえて、しまたっすることは容易よういのことでない。つかれをやすめて、おだやかな、いい天気てんきのつづくとうではないか。」
「それがいい。ゆきひかる、たかやまのふもとには、高山植物こうざんしょくぶつ野原のはらがあり、みごとな深林しんりんがあるというはなしだから、そこまでいこう。そして、いいつことにしよう。」
みんなは、この最後さいごせつしたがいました。それから、ゆきひかる、たかやまたずねて、そのふもとへといったのであります。
そのたかやまは、すぐにわかりました。ふもとへいってみると、うつくしくれたそらしたに、高山植物こうざんしょくぶつが、さかりといていました。しろれは、おもおもいに、自分じぶんきなはなさがしてびまわったのでありました。
しらかばや、はんや、落葉松らくようしょうはやしなかには、くびのあかい、小形こがたのつばめがたくさんきていていました。そのなかの一のつばめが、高山植物こうざんしょくぶついている野原のはらりたときに、火山岩かざんがんうえまって、はなしをしました。
わたしたちも、そのしま見物けんぶつにゆくのですよ。それでここへきて、天気てんきはからっているのです。」と、つばめはいいました。
は、いまさら、そのしまが、それほど、うつくしい、有名ゆうめいなところであるのをりました。
わたしたちは、とおい、みなみ深林しんりんからたびをして、幾日いくにちも、幾日いくにちもかかって、ここまでやってきたのです。いっしょに出発しゅっぱつしながら、ながあいだには、おくれたり、また災難さいなんにかかってんだりした仲間なかまもありました。しかし、これから、うみわたることが困難こんなんだとおもっています。」と、はいいました。
つばめは、からだをつぼめるようにして、高原こうげんうえいてくる、かぜほうかっていましたが、
わたしたちも、やはり、みなみからきたものです。そのしまにいって見物けんぶつがすんだら、あまりさむくならないうちに、故郷こきょう旅立たびだちしなければなりません……。」と、こたえたのです。
たちは、このつばめの言葉ことばいておどろきました。
いま、ひかりつよく、そらは、かがやいているけれど、やがて、自分じぶんたちにとっておそろしいあきがやってくることを、つばめの言葉ことばによってさとられたからでした。
わたしたちは、二故郷こきょうへはかえることはできまい。せめて、はやく、そのしまいて、ぬまでたのしくおくりたいものだ。」と、は、ためいきをつきました。
「そんなになげいたものでない。まだ自分じぶんたちはまれてから、いままできてきたほど、このさききられるのだから、ちからとすことはない。」と、またほかのがいいました。
「そんなことは、かんがえないほうがいい。」
たちのはなしを、だまっていていたつばめは、
「ほんとうに、そうですとも。あなたたちの一にちは、わたしたちの半年はんとしよりも、もっとおもしろく、愉快ゆかいに、らしがいがあるのですから、そんなことを心配しんぱいすることはありません。まだ、あなたたちは、おわかいのです……。」といいました。
「それで、あなたがたは、いつ、そのしまへおちになりますか。」と、は、つばめにたずねた。
つばめはあたまをかしげて、そらながら、
「それは、まだわかりませんが、きまったら、おらせいたしましょう。」とこたえた。
「どうぞ、おらせください。わたしたちも、ごいっしょにつようになるかもしれませんから。」と、たのみました。
はじめて、うみうえわたには、なんとなく心細こころぼそおもわれたからです。そして、つばめたちが、いいというは、自分じぶんたちにも、いいにちがいないとかんがえたからでした。
二、三にちのち晩方ばんがたでした。先日せんじつはなしをしたつばめが、たちのいるところへきて、明日あす自分じぶんたちは、しまかって出発しゅっぱつすることをらせました。
「また、しまでおにかかれるかもしれません。どうぞ、ご機嫌きげんよう……。」と、つばめは、いとまごいをして、かれらの仲間なかまのいるはやしほうんでいきました。
たちは、自分じぶんらも明日あすつかどうかということについて、相談そうだんしました。このとき、かわいらしい淡紅色うすべにいろ高山植物こうざんしょくぶつはなかおをこちらにけて、
明日あすは、かぜになりますよ。」と、注意ちゅういしたのです。その言葉ことばは、あまりたちにはかえりみられなかった。
たか山脈さんみゃくいただきは、あかるく雲切くもぎれがして、れてしまいました。一無事ぶじぎて、翌朝あくるあさになると、そらはいつものごとくあおれていました。このとき、たちは、空高そらたかくつばめのれが、はやしから旅立たびだって、きたしてんでゆく姿すがたをながめたのでした。
おれたちもいこう!」
れは、つばめたちのあとって、旅立たびだったのでありました。
そのあとで、高山植物こうざんしょくぶつは、しきりにあたまうごかしていた。はたして、ひるごろから、よるにかけて、つよみなみからあらしわってしまった。
つばめらは、予期よきしたごとく、あらしって、安々やすやすしまいたけれど、たちは、ひとたまりもなく、うみなかとされてんでしまったのであります。
――一九二六・三――
 
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