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港に着いた黒んぼ(2)_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网
时间:
2024-10-24
作者:
destoon
进入日语论坛
核心提示:一人ひとりの見みなれない男おとこが、姉あねの前まえに進すすみ出でました。「この町まちの大尽だいじんのお使つかいでまいった
(单词翻译:双击或拖选)
港に着いた黒んぼ
小川未明
やっと、
十
とお
ばかりになったかと
思
おも
われるほどの、
男
おとこ
の
子
こ
が
笛
ふえ
を
吹
ふ
いています。その
笛
ふえ
は、ちょうど
秋風
あきかぜ
が、
枯
か
れた
木
き
の
葉
は
を
鳴
な
らすように、
哀
あわ
れな
音
おと
をたてるかと
思
おも
うと、
春
はる
のうららかな
日
ひ
に、
緑
みどり
の
色
いろ
の
美
うつく
しい、
森
もり
の
中
なか
でなく
小鳥
ことり
の
声
こえ
のように、かわいらしい
音
おと
をたてていました。
その
笛
ふえ
の
音
ね
を
聞
き
いた
人々
ひとびと
は、だれがこんなに
上手
じょうず
に、また
哀
あわ
れに
笛
ふえ
を
吹
ふ
いているのかと
思
おも
って、そのまわりに
寄
よ
ってきました。するとそれは、
十
とお
ばかりの
男
おとこ
の
子
こ
で、しかもその
子供
こども
は、
弱々
よわよわ
しく
見
み
えたうえに、
盲目
めくら
であったのであります。
人々
ひとびと
は、これを
見
み
て、ふたたびあっけにとられていました。
「なんという、
不憫
ふびん
な
子供
こども
だろう?」と、
心
こころ
に
思
おも
わぬものはなかった。
しかし、そこには、ただその
子供
こども
が、
一人
ひとり
いたのではありません。その
子供
こども
の
姉
ねえ
さんとも
見
み
える十六、七の
美
うつく
しい
娘
むすめ
が、
子供
こども
の
吹
ふ
く
笛
ふえ
の
音
ね
につれて、
唄
うた
をうたって、
踊
おど
っていたのでありました。
娘
むすめ
は、
水色
みずいろ
の
着物
きもの
をきていました。
髪
かみ
は、
長
なが
く、
目
め
は
星
ほし
のように
輝
かがや
いて
澄
す
んでいました。そして、はだしで
砂
すな
の
上
うえ
に、
軽
かる
やかに
踊
おど
っている
姿
すがた
は、ちょうど、
花弁
はなびら
の
風
かぜ
に
舞
ま
うようであり、また、こちょうの
野
の
に
飛
と
んでいる
姿
すがた
のようでありました。
娘
むすめ
は、
人恥
ひとは
ずかしそうに
低
ひく
い
声
こえ
でうたっていました。その
唄
うた
は、なんという
唄
うた
であるか、あまり
声
こえ
が
低
ひく
いので
聞
き
きとることは、みんなにできなかったけれど、ただ、その
唄
うた
をきいていると、
心
こころ
は
遠
とお
い、かなたの
空
そら
を
馳
は
せ、また、さびしい
風
かぜ
の
吹
ふ
く、
深
ふか
い
森林
しんりん
を
彷徨
さまよ
っているように
頼
たよ
りなさと、
悲
かな
しさを
感
かん
じたのであります。
人々
ひとびと
は、この
姉
あね
と
弟
おとうと
が、
毎日
まいにち
どこから、ここにやってきて、こうして
唄
うた
をうたい、
笛
ふえ
を
吹
ふ
いてお
金
かね
をもらっているのか
知
し
りませんでした。それは、どこにもこんな
哀
あわ
れな、
美
うつく
しい、またやさしい、
乞食
こじき
を
見
み
たことがなかったからであります。
この
二人
ふたり
は、まったく
親
おや
もなければ、
他
た
に
頼
たよ
るものもなかった。この
広
ひろ
い
世界
せかい
に、
二人
ふたり
は
両親
りょうしん
に
残
のこ
されて、こうしていろいろとつらいめをみなければならなかったが、
中
なか
にも
弱々
よわよわ
しい、
盲目
めくら
の
弟
おとうと
は、ただ
姉
あね
を
命
いのち
とも、
綱
つな
とも、
頼
たよ
らなければならなかったのです。やさしい
姉
あね
は、
不幸
ふこう
な
弟
おとうと
を
心
こころ
から
憫
あわ
れみました。
自分
じぶん
の
命
いのち
に
換
か
えても、
弟
おとうと
のために
尽
つ
くそうと
思
おも
いました。この
二人
ふたり
は、この
世
よ
にも
珍
めずら
しい
仲
なか
のよい
姉弟
きょうだい
でありました。
弟
おとうと
は、
生
う
まれつき
笛
ふえ
が
上手
じょうず
で、
姉
あね
は、
生
う
まれつき
声
こえ
のいいところから、
二人
ふたり
は、ついにこの
港
みなと
に
近
ちか
い、
広場
ひろば
にきて、いつごろからともなく
笛
ふえ
を
吹
ふ
き、
唄
うた
をうたって、そこに
集
あつ
まる
人々
ひとびと
にこれを
聞
き
かせることになったのです。
朝日
あさひ
が
上
のぼ
ると
二人
ふたり
は、
天気
てんき
の
日
ひ
には、
欠
か
かさずに、ここへやってきました。
姉
あね
は、
盲目
めくら
の
弟
おとうと
の
手
て
を
引
ひ
いてきました。そして、
終日
しゅうじつ
、そこで
笛
ふえ
を
吹
ふ
き、
唄
うた
をうたって、
日
ひ
が
暮
く
れるころになると、どこへか、
二人
ふたり
は
帰
かえ
ってゆきました。
日
ひ
が
輝
かがや
いて、
暖
あたた
かな
風
かぜ
が、
柔
やわ
らかな
草
くさ
の
上
うえ
を
渡
わた
るときは、
笛
ふえ
の
音
ね
と
唄
うた
の
声
こえ
は、もつれあって、
明
あか
るい
南
みなみ
の
海
うみ
の
方
ほう
に
流
なが
れてゆきました。
姉
あね
は、
毎日
まいにち
のように、こうして
踊
おど
ったり、
唄
うた
をうたったりしましたけれど、
弟
おとうと
の
笛
ふえ
の
音
ね
を
聞
き
くと、いつも、
疲
つか
れるということをすこしも
身
み
に
覚
おぼ
えませんでした。
元来
がんらい
内気
うちき
なこの
娘
むすめ
は、
人々
ひとびと
がまわりにたくさん
集
あつ
まって、みんなが
目
め
を
自分
じぶん
の
上
うえ
に
向
む
けていると
思
おも
うと
恥
は
ずかしくて、しぜん
唄
うた
の
声
こえ
も
滅入
めい
るように
低
ひく
くはなりましたけれど、そのとき、
弟
おとうと
の
吹
ふ
く
笛
ふえ
の
音
ね
に
耳
みみ
を
傾
かたむ
けると、もう、
自分
じぶん
は、
広
ひろ
い、
広
ひろ
い、
花
はな
の
咲
さ
き
乱
みだ
れた
野原
のはら
の
中
なか
で、
独
ひと
り
自由
じゆう
に
駆
か
けているような
心地
ここち
がして、
大胆
だいたん
に、
身
み
をこちょうのように
軽
かる
く
跳
は
ね
上
あ
げて、おもしろく
踊
おど
っているのでした。
ある
夏
なつ
の
日
ひ
のことでありました。その
日
ひ
も
太陽
たいよう
は、
早
はや
くから
上
あ
がって、みつばちは
花
はな
を
探
たず
ねて
歩
ある
き、
広場
ひろば
のかなたにそびえる
木立
こだち
は、しょんぼりと
静
しず
かに、ちょうど
脊
せ
の
高
たか
い
人
ひと
が
立
た
っているように、うるんだ
空
そら
の
下
した
に
浮
う
き
上
あ
がって
見
み
えました。
港
みなと
の
方
ほう
では、
出入
でい
りする
船
ふね
の
笛
ふえ
の
音
おと
が、
鈍
にぶ
く
聞
き
こえていました。
明
あか
るい、あめ
色
いろ
の
空
そら
に、
黒
くろ
い
煙
けむり
の
跡
あと
がわずかに
漂
ただよ
っている。それは、これから、
青
あお
い、
青
あお
い
波
なみ
を
分
わ
けて、
遠
とお
く
出
で
てゆく
船
ふね
があるのでありました。
その
日
ひ
も、
二人
ふたり
のまわりには、いつものごとく、
人
ひと
が
黒山
くろやま
のように
集
あつ
まっていました。
「こんないい、
笛
ふえ
の
音
ね
を
聞
き
いたことがない。」と、
一人
ひとり
の
男
おとこ
がいいました。
「
私
わたし
は、ほうぼう
歩
ある
いたものだが、こんないい
笛
ふえ
の
音
ね
を
聞
き
いたことがなかった。なんだか、この
笛
ふえ
の
音
ね
を
聞
き
いていると、
忘
わす
れてしまった
過去
かこ
のことが、一つ、一つ
心
こころ
の
底
そこ
に
浮
う
かび
上
あ
がって
目
め
に
見
み
えるような
気
き
がする。」と、
他
た
の
一人
ひとり
の
男
おとこ
がいいました。
「あれで
目
め
があいていたら、どんなかわいい
男
おとこ
の
子
こ
でしょう。」と、ある
一人
ひとり
の
女
おんな
がいいました。
「
私
わたし
は、あんな
器量
きりょう
よしの
娘
むすめ
を
見
み
たことがない。」と、
他
た
の
年
とし
をとった、
荷物
にもつ
をかついだ
旅
たび
の
女
おんな
らしい
人
ひと
がいいました。
「あれほどの
器量
きりょう
なら、こんなことをしていなくてもよさそうなものだ。あんな
美
うつく
しい
娘
むすめ
なら、だれでももらい
手
て
があるのに。」と、
脊
せ
の
低
ひく
い
男
おとこ
がのびあがって、あちらを
見
み
ながら、いっていました。
「きっと、あれには、だれかついているものがあるでしょう。そして、
金
かね
もうけをしようというのでしょう。」
「いいえ、あの
娘
むすめ
は、そんな
下卑
げび
た
子供
こども
ではありません。きっと、あの
弟
おとうと
のために、こうして
苦労
くろう
をしているのです。」と、さっきから
黙
だま
って、じっと
娘
むすめ
の
踊
おど
るのを
見
み
ていた
女
おんな
の
人
ひと
がいいました。
人々
ひとびと
は、
思
おも
い
思
おも
いのことをいいました。
中
なか
には、
金
かね
を
足
あし
もとへ
投
な
げてやったものもありました。
中
なか
には、いろいろのことをしゃべりながら、いつか
消
き
えるように、
銭
ぜに
もやらずに
去
さ
ってしまったものもありました。
つつがなく、やがて、その
日
ひ
も
暮
く
れようとしていました。
海
うみ
の
上
うえ
の
空
そら
を、いぶし
銀
ぎん
のように
彩
いろど
って、
西
にし
に
傾
かたむ
いた
夕日
ゆうひ
は
赤
あか
く
見
み
えていました。
人々
ひとびと
は、おいおいにその
広場
ひろば
から
立
た
ち
去
さ
りました。うす
青
あお
い
着物
きもの
をきた
姉
あね
は、
弟
おとうと
をいたわって、
自分
じぶん
たちもそこを
去
さ
ろうとしたときであります。
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