私は、夜を讃美し、夜を怖れる。
青い、菜の葉に塩をふりかけて、
風もなく、雨も降らず、大空には星の光りも隠れて、しかも厚い鉄板を頭の上に張り詰めたような重苦しい、大きな音を立てても、音の通らないような、次第次第に、何等か大きな黒い楯が迫って来て、息の
そして、この青白い月夜と黒色の闇の夜とは、私に性質の異った恐怖を与えている。
「お
私は、家の前の戸口に立って、青白い薄い
こんな晩に
私の家と、お繁さんの家とは
私は、かかる夜を讃美し、かかる夜を怖れる。
西の空が飴色に黄色く
音もない、外の黒い木立の姿が、尼さんの喪服を着て立っているように窓の内から見られた。色の青褪めた、
「お前もう、日が暮れるのだよ。夜中になってから、悪くなってお医者様を迎いに行くようなことがあると、いけないから、今の内に迎いに行って来ようか……。」
といった。そのふるえた、どこか臆病げな
「夜中になってから……。」この一言は、いかにも北国の淋しい、暗い、物凄い夜を言いふくめている。闇夜に、誰一人通らない田舎道を、曲りまがって、田の中や、五六本並木の立っている処や、二三軒人家のある前を通って、一里余り、もしくは二里も、
私は、かかる夜を讃美し、かかる夜を怖れる。
死は、人間の苦痛の
私は、死は人間最終の悲しみであり、悲しみの極点は死であると思い、いかなるものも死を免れぬという考えから、むしろ死に
夜と、死と、暗黒と、青白い月とを友として、そんな怖れを喜びにしたロマンチックの芸術を書きたいと思う。