その
月日は夢の中に過ぎた。清吉が東京へ出てから五年目の春の暮である。この灰色の、海に近い町の
この日、ぶらりと清吉は久しぶりで我が故郷へ帰って来た。余りの不意の帰宅に父母は驚いて、まあどうしてかと顔を見るより早くその訳を聞いた。
「清吉、お前は又東京へ行くんだろうね、親方様にはお変りはないかえ。」
と
「まあそんなに
其様ことで清吉はついに何もせずにぶらりぶらりとその日を送って、もはやいつしか春も過ぎてしまった。母親は清吉にそう遊んでばかりいてはつまらないから、
「蝋で人形が出来るなら、それでも造って銭にせよ。」と母親がいった。
その日から清吉は父親と仕事場に並んで蝋を
母親もどうせ今度は養生に来たのだから、
或日のこと彼はしみじみと独り言のように、「東京へ帰らんけれやならんのか、もう海も今日限りで見納めだなア。」といって涙を目に
「又来年来い、夏の暑い盛りには来るがええだ。」といったが、清吉はそれには答えんで、
清吉が熱心に三月の間工夫して造り上げた蝋人形の一つは
かくて夏の末となって
また月日は三年ばかりたった。けれど清吉からは何のたよりもない。兵蔵は十年一日の如く、
* * *
清吉が造って行ったただ一つの蝋人形の
海辺に近く住む猟師の娘で、お
海は