あるところに、その話 を聞 いて、たいへん娘 に同情 をして、気 の毒 がったおじいさんがあります。そのおじいさんは、もう頭 が真 っ白 でした。そして、背 が低 く、いつも太 いつえをついて歩 いていました。
「私 の考 えるに、その娘 は、詩人 というものじゃ。宝石 より空 の星 が美 しいとは、いまどきには、めずらしい高潔 な思想 じゃ。平常 、沈 んでいるのも、ものをいわないのもよくわかるような気 がする。私 がいって、その娘 にあってやろう。」と、おじいさんはいって、独 りできめてしまいました。
おじいさんは、つえをついて、ある日 、その家 をたずねました。そして、自分 は娘 を救 いにやってきたことを両親 に話 しました。
両親 は、この老人 が、徳 の高 い人 だということを知 っていました。そして、そのしんせつを心 から感謝 しました。
「どうしたら、娘 がもっと快活 にものをいったり、笑 ったりするようになるでしょうか。」と、両親 は、老人 に問 いました。
「性質 というものは、そう容易 に変 わらないものじゃ、けれどお嬢 さんは、金持 ちの家 に生 まれながら、衣服 や、宝石 などよりも、空 の星 を愛 されるところをみると、たしかに詩人 になられる素質 があるようだ。そういう人 を教育 するには、物質 ではいけない。やはり音楽 や自然 でなければならない。感情 ・趣味 、そういう方面 の教育 でなければならないと思 われる。これから、私 は、お嬢 さんに、音楽 を教 え、自然 を友 とすることを教 えましょう。もっと生 まれ変 わったように、快活 なお方 となられると思 うじゃ。」と、老人 はいいました。
両親 は、これを聞 くと、たいそう喜 びました。そこで、この老人 に、娘 の教育 を頼 みました。老人 は、娘 に音楽 を教 えました。また広 い圃 にはいろいろな草花 を植 えました。あるときはその花 の咲 いた園 の中 で、楽器 を鳴 らしました。小鳥 は、その周囲 の木々 に集 まってきました。美 しいちょうは、ひらひらと飛 んできて花 の上 を舞 いながら、いい音楽 のしらべに聞 きとれているように見 えました。こんな日 が幾日 もつづきましたけれど、娘 は笑 いませんでした。笑 わないばかりでなく、前 よりもいっそう顔 の色 が青白 く、やつれて見 えるのでありました。両親 はたいそう心配 しました。老人 は、不思議 に思 いました。
「なんで、あなたは、そんなに憂 わしい顔 つきをしているのじゃ。」と、老人 は、娘 にききました。
すると、娘 は、目 にいっぱい涙 をためて、
「この真 っ赤 な花弁 に、晩方 の風 がかすかに吹 き渡 るのをながめますと、私 はたまらなく悲 しくなります。音楽 の音色 も私 の心 を楽 しませることはできません。」と、娘 は答 えました。
さすがに徳 の高 い老人 も、このうえ娘 を快活 にする術 を考 えることはできなくなりました。そして、暇 を告 げて、老人 はどこへか、つえをつきながら立 ってしまいました。
このうわさは、また世間 に広 がりました。
「だれか、あの金持 ちの娘 を笑 わせるものはないか。」と、人々 はいいました。
このことを、ある年 の若 い医者 が聞 きました。その医者 は学者 でありました。そして、あまり世間 には顔 を出 さず、いっしょうけんめいに研究 をしているまじめな人 でありました。医者 はこの話 を聞 くと、興味 をもちました。
「その娘 は、一種 の精神病者 にちがいなかろう。診察 をして、できることなら自分 の力 でなおしてやりたいものだ。」と思 いました。
年 の若 い、まじめな医者 は、金持 ちの家 へやってきました。両親 は、医者 の話 を聞 いているうちに、もしや自分 の娘 は、精神病者 でないかというような疑 いを抱 きましたから、
「どうぞ、早 くご診察 をしてください。そして、あなたのお力 でなおることなら、どうぞなおしてください。」と、医者 に頼 みました。
医者 は、娘 について、いろいろ診察 をしました。けれど、心臓 は正 しく打 っており、肺 は強 く呼吸 をし、どこひとつとして狂 っているところはないばかりか、すこしも精神病者 らしいところも見 うけなかったのです。
「なぜ、あなたは笑 いませんか?」と、まじめな医者 は娘 にたずねました。
「私 には、どうしても笑 えないのです。」と、娘 は答 えた。
「なぜですか?」
「なぜだか、それが私 にもわからないのです。」と、娘 は答 えました。
医者 は、それは自分 の研究 すべき領分 でないことを感 じました。そして、頭 をかしげて、その家 から去 ってしまったのです。
そのころ、ちょうど旅 精神病者にちがいなかろう。診察 をして、できることなら自分 の力 でなおしてやりたいものだ。」と思 いました。
年 の若 い、まじめな医者 は、金持 ちの家 へやってきました。両親 は、医者 の話 を聞 いているうちに、もしや自分 の娘 は、精神病者 でないかというような疑 いを抱 きましたから、
「どうぞ、早 くご診察 をしてください。そして、あなたのお力 でなおることなら、どうぞなおしてください。」と、医者 に頼 みました。
医者 は、娘 について、いろいろ診察 をしました。けれど、心臓 は正 しく打 っており、肺 は強 く呼吸 をし、どこひとつとして狂 っているところはないばかりか、すこしも精神病者 らしいところも見 うけなかったのです。
「なぜ、あなたは笑 いませんか?」と、まじめな医者 は娘 にたずねました。
「私 には、どうしても笑 えないのです。」と、娘 は答 えた。
「なぜですか?」
「なぜだか、それが私 にもわからないのです。」と、娘 は答 えました。
医者 は、それは自分 の研究 すべき領分 でないことを感 じました。そして、頭 をかしげて、その家 から去 ってしまったのです。
そのころ、ちょうど旅 から曲馬師 が、この村 に入 ってきて、この話 を聞 きますと、
「若 い時分 には、そんなような性質 の娘 さんがあるものだ。私 は、よくその娘 さんの気持 ちを知 っている。」といいました。
この年 をとった曲馬師 は、堅 いしんせつな人 でありました。ある日 、娘 の家 へたずねてきて、
「私 に、娘 さんをおあずけください。きっと快活 な、愉快 な人 にしてあげますから。」と申 しました。
両親 は、大事 な娘 を、旅 の曲馬師 にあずけることを躊躇 しましたが、その人 がたいへんにしんせつな、正直 な人 だということがわかりましたものですから、娘 に聞 いてみました。
「私 は、遠 い国 の知 らない町 を見 たいと思 っていましたから、どうかやってください。」と頼 みました。
曲馬師 は、両親 から娘 をあずかりました。娘 は、その人 たちの一行 に加 わって、故郷 を出発 したのであります。
それから、娘 は南 の町 へゆき、あるときは西 の都 にまいりました。そして、いろいろの人 たちに交 わりました。春 も過 ぎ、夏 もゆき、はやくも一年 はたちました。両親 は、娘 のことを案 じ暮 らしていました。
ある日 の暮 れ方 に、不意 に娘 が帰 ってきました。両親 は、見違 えるように我 が子 の美 しく、快活 になっていたのに驚 いたのです。
「どうして、おまえは、そんなに生 まれ変 わったように、おもしろそうに笑 うようになったか?」と問 いました。
「だって、世 の中 は、愉快 なんですもの。」と、娘 は答 えた。
「
おじいさんは、つえをついて、ある
「どうしたら、
「
「なんで、あなたは、そんなに
すると、
「この
さすがに
このうわさは、また
「だれか、あの
このことを、ある
「その
「どうぞ、
「なぜ、あなたは
「
「なぜですか?」
「なぜだか、それが
そのころ、ちょうど
「どうぞ、
「なぜ、あなたは
「
「なぜですか?」
「なぜだか、それが
そのころ、ちょうど
「
この
「
「
それから、
ある
「どうして、おまえは、そんなに
「だって、