第五話 ナポリタン
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京都駅の烏丸口を出て、美み月づき明あ日す香かは雨に煙る京都タワーを見上げた。
わずかに顔を曇らせて、ビニール傘を勢いよく開く。
梅雨のさなかだから仕方ないと思いながらも、恨めしい気分で空を見上げた。
空から一直線に落ちて来る雨粒は、地面に激しく当たって跳ね返る。烏丸通のあちこちに水たまりが出来ていた。
水たまりを避よけながら、北に向かってジグザグ歩きをする明日香の目に、やがて雨に霞かすむ東本願寺が見えて来る。明日香は赤いレインコートのポケットからメモ用紙を取り出し、傘の持ち手を右の頰で押さえた。
メモの地図を確かめて、明日香は急ぎ足で信号を渡った。
明日香が京都にやって来るのは三度目だ。最初は中学の修学旅行、二度目は祖父の知ち一いち郎ろうが連れて来てくれた。二度とも寺や神社ばかりを回っていたような、そんな記憶ばかりが浮かんで来る。東本願寺を背にし、正面通を東に歩く明日香の耳には、知一郎のやさしい声がこだましていた。
「まさかこれじゃないよね」
モルタル造りの殺風景なしもた屋の前で立ち止まった明日香が、眉を八の字にした。
濡ぬれネズミのような灰色の二階屋には看板もなく、暖の簾れんも上がっていない。半信半疑のまま、明日香は思い切って引き戸を引いた。
「いらっしゃい」
白衣にジーンズ姿の若い女性が、ぶっきらぼうな声で明日香を迎えた。
「こちらは鴨川食堂でしょうか」
殺風景な店内を見回して、明日香が訊きいた。
「そうですけど」
「じゃ、鴨川探偵事務所はどちらに?」
「そっちのお客さんでしたか。探偵の方は、この奥になってます。わたしが所長の鴨川こいしです」
こいしが明日香に一礼した。
「美月明日香と言います。〈食〉を捜してもらいたくて」赤いレインコートを脱いで、明日香がちょこんと頭を下げた。
「お掛けになって、待っててもらえますか」
こいしが食器を重ねてトレーに載せた。店の中に客の姿はないが、その痕跡はそこかしこに残っている。明日香はそれらを避けてパイプ椅子に腰かけた。
「お客さんか?」
白衣姿の男性が厨ちゅう房ぼうから出て来た。鴨川食堂の主、鴨川流である。
「探偵の方のお客さんやねん」
テーブルを拭きながら、こいしが言った。
「お腹なかはどないです?」
流が明日香に訊いた。
「何か食べさせてもらえるんですか」
「初めての方には、おまかせで食べてもろてます。それでよかったら」「好き嫌いもアレルギーもありません。なんでも美お味いしくいただきます」立ち上がって明日香が頭を下げた。
「ちょっとずつ美味しいもんを食べたい、そない言わはるお客さんが今夜お越しになるんですわ。少し余分を仕込みましたんで、それをお出しします」流が小走りで厨房に戻って行った。
「この雨の中をどちらから?」
こいしが明日香の前のテーブルを丁寧に拭いた。
「浜松です」
明日香が短く答えた。
「明日香さん、やったね。うちのことは、どうやって?」こいしが清水焼の急須を傾けた。
「父と母が小さな居酒屋をやっているので『料理春秋』がいつも家にあるんです。〈食、捜します〉という一行広告がずっと気になっていて」「それだけでここまで来てくれたん? ご縁があったんやね」「最初は場所も何もまったく分からなくて……。思い切って編集部に電話してみたんです。そしたら編集長さんが出てくださって、長々とお話ししたら特別にヒントを頂ちょう戴だいして、なんとか辿たどり着けました」
「浜松の居酒屋さんか。美味しい鰻うなぎとかあるんやろね」「鰻もありますけど、うちの一番人気は餃子ギョーザなんです」明日香が茶を啜すすった。
「浜松は餃子の街やさかいな」
盆に載せて、流が料理を運んで来た。
「宇都宮を抜いて、浜松は日本一の餃子の街になったんです」明日香が胸を張った。
「鰻と餃子。どっちも好きやなぁ」
半月状の折お敷しきを明日香の前に置き、こいしが利休箸を並べた。
食堂だから手軽な料理だと思い込んでいた明日香は、いくらか戸惑いを覚えた。かしこまった席は苦手なのに、京料理でも出て来そうな雰囲気なのだ。
「無作法なもので」
明日香が両方の肩を縮めた。
「気楽に食べてくれはったらええんよ」
こいしがスプレーで折敷に露を打った。
「こんな食堂でも、京都っちゅうところは季節を大事にします。それを楽しんでもらおと思いましてな。夏近し、というとこですわ。こいしが言うたとおり、気楽に食べてもろたらよろしい」
豆皿というのだろうか。明日香の掌てのひらにも満たない小さな皿を、流が盆から折敷に移して行く。
「かわいいですね」
思わず明日香が言葉にした。
「古いもんやら、西洋のもん、現代作家さんの器。いろいろですわ」折敷に色とりどりの花が咲く。明日香が指を差しながら十二を数えた。
「左の上から、明石の鯛たいを細造りにして木の芽と和あえてます。ポン酢で召し上がってください。賀か茂もナスの田楽はひと口にしときました。舞鶴の鳥貝はミョウガに挟んでます。甘酢で〆しめたコハダを小袖の棒ぼう寿ず司しにしました。早さ松まつ茸たけのフライ、鱧はもの源平焼き、万願寺唐辛子の天ぷら、鮑あわびは西京味さいきょうみ噌そに漬け込んで焼きました。魚うおそうめん、地じ鶏どりの鞍くら馬ま煮に、鯖さばの燻くん製せいに松の実を挟んでます。生湯葉の柴漬け和え。どれもひと口サイズなんで、女性向きやと思います。穴子飯が炊き上がったらお持ちします。ゆっくり召し上がってください」
料理の説明を終えて、流が盆を脇に挟んだ。
「こんなのはじめて。どれから手をつけたらいいのでしょう」明日香が目を輝かせている。
「お好きなもんを、好きなように召し上がってもろたらよろしい」一礼して流が厨房に戻って行った。
「いただきます」
神妙な顔付きで合掌し、明日香が箸を取る。
鯛をポン酢につけて口に入れた明日香が思わず叫んだ。
「美味しい」
間を置かず、早松茸のフライに塩を振って口に運び、大きくうなずいた。
「熱いので気ぃつけてくださいや」
蓋の隙間から湯気の上がる土鍋を運んで来て、流がテーブルに置いた。
「いい匂い」
明日香が鼻をひくつかせる。
「鰻も旨うまいけど、あっさりと穴子もええもんでっせ。明石の焼き穴子を、実み山ざん椒しょうと一緒に炊き込んでます」
流が土鍋の蓋を取ると、もうもうと湯気が上がった。
小さな茶碗によそわれた穴子飯に箸をつけて、明日香がやわらかな笑みを浮かべる。
見届けて、流が一礼した。
三皿目に箸を付けたころから、明日香の目が潤みはじめた。五皿、七皿と続くと、ぽろぽろと涙がこぼれる。何度もハンカチで目尻を拭ぬぐう。見かねて、こいしが傍らに屈かがみ込んだ。
「どうしはったん? 気分でも悪いん?」
「あんまり美味しくて。ごめんなさい。美味しいものを食べるといつも泣けてきちゃうんです」
明日香が泣き笑いしている。
「それやったらええんですけど」
空いた皿を下げて、こいしが厨房の暖簾を潜くぐる。流はその様子をじっと見ていた。
明日香は残った五枚の皿を見つめた。
思い出の味捜しと言いながら、実はこの料理と巡り合うために来たのではないか。明日香は、そんな風にも思った。それほど心に沁しみ入る料理だ。
慈しむように、名残りを惜しみながら、明日香がすべての皿を空にした。
「お気に召しましたかいな」
タイミングよく、流が明日香の傍そばに立った。
「ありがとうございます。美味しい、とかを通り越しちゃうんですね。なんだか胸がざわざわしてます」
胸に手を当てて、明日香が深呼吸した。
「よろしおした。こいしが奥で準備してますんで、もうちょっと待ってくださいな。熱い焙ほうじ茶を置いときます」
流が空いた器を下げて、急須を万ばん古こ焼やきに替え、湯ゆ吞のみも取り替えた。
しんと静まり返った店の中で、明日香が焙じ茶を啜る音だけが響く。少し啜っては、小さくため息を吐つく。何度かそれを繰り返した。
「お待たせしましたな」
流が横に立った。
「お願いできますか」
明日香が立ち上がった。
食堂の奥から長い廊下を伝って、探偵事務所へと流が先導する。
「この写真は?」
廊下の両側にびっしり貼られた写真に明日香が目を留めた。
「おおかたは、わしが作った料理ですわ」
立ち止まって、流がはにかんだ。
「奥さまですか?」
白しら樺かばの木陰でグラスを傾ける女性を、明日香が指差した。
「これが最後の写真になりました。軽井沢で撮った写真です。長野で好物の蕎そ麦ばを食うて、気に入りのホテルに戻って、好きなワインを飲んでる。こんな幸せな時間があるかいな、そんな顔してますやろ」
心なしか、流の瞳が潤んで見えた。こういうときにどういう言葉をかけていいのか、思いつかないまま、明日香は流の背中を追った。
「美月明日香さん。芸名みたいやね」
若い女性ならではの丸文字をこいしが目で追った。こいしと明日香はローテーブルを挟んで、向かい合って座っている。
「子供のころは恥ずかしかったです」
浅く腰かける明日香が肩を狭めた。
「遠州女子大学二回生。十九歳かぁ。青春まっただ中やん」こいしが羨ましそうに言った。
「なんかそういう実感がなくて」
明日香がいくらか翳かげを含んだ声でつぶやいた。
「で、どんな〈食〉を捜したらええの?」
こいしがノートを開いた。
「祖父と一緒に食べたスパゲッティを捜して欲しいんです」明日香がこいしの目を真まっ直すぐに見た。
「どんな?」
こいしがノートに書き付ける。
「ナポリタンだったと思います。ケチャップ味でウィンナーが載って」「うちのお父ちゃんの得意料理や。お祖じ父いちゃんが作ってくれはったん?」「いえ。祖父の料理を食べた記憶はありません。旅行先のお店でふたりで食べたんです」「ええお祖父ちゃんなんやね」
「うちの両親は共働きでずっと忙しくしていて……。なので小さいころは、ずっと祖父がわたしの面倒を見てくれていたんです」
明日香が顔をほころばせる。
「お名前は」
「知一郎です。美月知一郎」
こいしの問いに、明日香は姿勢を正して答えた。
「お祖ば母あちゃんは?」
「わたしが生まれて間もなく、病気で亡くなりました。ほとんどお祖母ちゃんの記憶はありません」
明日香の声が沈んだ。
「スパゲッティを食べたのは、どこへ旅行に行ったときやったん?」ペンを構えてこいしが訊きいた。
「祖父にはあちこち連れて行ってもらいましたので、まったくわかりません」明日香がローテーブルに目を落とした。
「どの地方かも?」
こいしの問いかけに、明日香は黙って首を横に振った。
「祖父は三年前から認知症を患ってしまって……。まさかこんなことになるとは思いもしなかったので、旅の思い出話なんかしたこともなくて」「雲をつかむような話やなぁ。日本中でナポリタンを出す店なんて何軒あるかなぁ」こいしが天井を仰いでため息を吐いた。
「五歳のころのことだったので……すみません」明日香がちょこんと頭を下げた。
「どんな旅行やったか、思い出してみよか。なんか覚えてることないかなぁ。たとえば乗り物とか。なんか見たとか」
まるで幼子に訊たずねるかのような口調で、こいしが明日香に言葉をかけた。
「海の近くのホテルに泊まりました」
固く目を閉じて、明日香が必死に記憶を辿っている。
「海の近く、後は何か?」
ペンを止めてこいしが訊いた。
「泊まった次の日、船に乗りました。車のまま乗ったような気がします」明日香が目を輝かせた。
「ということはフェリーか」
こいしがノートに二重線を引いた。
「でも、おかしいんですよね。家に帰るときは新幹線だったし。新幹線に乗って浜松へ戻ったことだけは、はっきり覚えているんです」明日香が小さな疑問を口にした。
「途中でレンタカーを借りはったんと違います? うちのお父ちゃんも、よう使わはりますねん」
「そうかもしれません。お祖父ちゃんの車じゃなかったような気もします」納得したように、明日香がうなずいた。
「海の近くのホテルて、どんなとこやったん?」「……」
明日香は懸命に思い出そうとして、しかし浮かんでは消える記憶を、なんとか手繰り寄せようとしている。
「どれぐらいの時間、船に乗ってたん?」
こいしが話の向きを変えた。
「そんなに長い時間じゃなかったと思います。一時間とか二時間とか、そんなくらい」「短い航路やね」
こいしがペンを走らせる。
「ホテルへ着く前……電気。電気がたくさん点ついていた、ような気がする」瞑めい想そうして明日香が言葉を繫つないだ。
「イルミネーションのことかなぁ」
勢い込んだこいしが前のめりになるが、明日香は首をかしげるばかりだ。
「まぁ、旅行のことはちょっと横に置いとくとして、肝心のスパゲッティを思い出してくれる? どんな店で、どんな味やったか」
本題に入って、背筋を伸ばしたこいしがペンを構えた。
「さっきも言いましたが、ナポリタンスパゲッティだったかと。ケチャップ味。ウィンナーが載っていて」
「どこにでもある普通のナポリタンやねぇ」
落胆したようにこいしがつぶやいた。
「黄色いスパゲッティ」
大きな声を出して、明日香が掌で膝を打った。
「黄色い? ナポリタンやったら赤いんと違うの」「赤と黄色が混ざった……」
記憶の糸を手繰ろうとしてか、明日香が天井の一点を見つめている。
「そんなナポリタンあるんかなぁ」
訝いぶかりながらも、こいしはノートにイラストを書き留めた。
「思い違いでしょうか」
自信をなくしたのか、明日香の声が小さくなった。
「お店のことは? 場所とか、店の名前とか雰囲気。五歳児には無理か」半ばあきらめ気味にこいしが訊いた。
「駅に着いて祖父に手を引かれて、たくさん歩いたような記憶があります」明日香は知一郎の手の温ぬくもりを思い出しているようだ。
「駅からしばらく歩く、と。食べてから又駅に戻ったん?」こいしがペンを構えた。
「スパゲッティを食べてから、新幹線に乗って家に帰りました。その間ずっとわたしは泣いていたような記憶があります」
「疲れたん?」
こいしが笑みを向けた。
「それもありますけど、スパゲッティがすごく美味しかったので、それで……」「そうか。美味しいものを食べたら泣けてくるんやったね」「美味しいものを食べたときに、涙が出て来るようになったのは、あのスパゲッティがきっかけだったような気がします」
明日香が遠い目をした。
「それくらいしか記憶がなくて……。火傷やけど、したような、口の中。それと赤い大きな瓶を祖父が写真に撮って……」
明日香のつぶやきをノートに書き写してから、こいしが訊ねる。
「それやったら旅行のときの写真を見たらええやん。お祖父さんが撮ってはるんやから。
写真を捜してみたら?」
「祖父が認知症を患っているんじゃないかと、疑い始めたきっかけが、身の回りのものを全部捨ててしまうことだったんです。大事な通帳だとか、現金や実印なんかをゴミ袋に放り込んでしまって。写真もその中に……」
明日香が声を落とした。
「お気の毒に」
「祖父と両親と四人で住んでいたんですが、家中の大事なものを全部捨ててしまうので、祖父は一昨年から施設に入っているんです」
明日香が寂しげに言った。
明日香の脳裏には長く四人で囲んだ団だん欒らんの光景が浮かんでいる。酒好きの知一郎は酔うほどに機嫌を良くし、やがて眠りに就く前に、決まって明日香の頭を二、三度撫でるのだった。
「写真が残ってたら、うちに捜してくれなんて頼まんでもええよね。やってみるしかないか。お父ちゃんやったら見つけてくれるやろ」こいしがノートを閉じた。
「よろしくお願いします」
姿勢を正した明日香が、深々と一礼した。
「けど、なんで今になって、そのナポリタンを捜そうと思わはったん?」こいしが訊いた。
「もう一度食べたいという気持ちもありますが、祖父に食べさせてあげたいんです。出来ればそのときと同じ店に連れて行ってあげて」「そうなんや」
「今では、会いに行ってもわたしが誰だかすら、わからなくなってしまっているんです」明日香がテーブルに目を落とした。
「よっしゃ。お祖父ちゃんにそのスパゲッティを食べさせてあげよ。まかしとき」ノートを閉じて、こいしが拳で胸を叩たたいた。
「あんじょう話はお聞きしたんか」
カウンター席に腰かけていた流が新聞を閉じた。
「わたしの記憶が頼りなくて」
明日香が言葉を挟んだ。
「ナポリタンを捜して欲しいんやて。お父ちゃんの得意料理やんか」こいしが言った。
「わしのレシピではあきまへんか」
流が明日香に笑みを向けた。
「美味しかったらそれでもいいんですが」
明日香が笑顔を返した。
「次のお約束はしたんかい」
流がこいしに訊いた。
「うっかりしてたわ。二週間後の今日でよろしい?」こいしがたしかめると、明日香はこっくりとうなずいて、店を出た。
「今日は京都にお泊まりで?」
明日香の持つ大きなバッグに、流が目を留めた。
「そのつもりだったんですが、明日もずっと雨みたいなので浜松に戻ります」「雨の京都もええもんですけどな」
流が雨空を見上げた。
「次の楽しみに取っておきます」
明日香が微笑ほほえんだ。
「せいだい気張って捜させてもらいます」
流が明日香の目をしっかりと見据えた。
「楽しみにしています」
一礼して明日香が、東本願寺に向かって歩いて行く。見送ってふたりは店に戻った。
「ここんとこ毎日雨やな。そろそろ飽きて来たで」流がパイプ椅子に腰かけた。
「こんなんで捜せるかなぁ」
隣に座ったこいしがノートを広げて、流に見せた。
「やってみんとわからんがな」
老眼鏡を出して、流がノートの字を追う。
「雲をつかむような話やろ。ナポリタンなんて、どこにでもあるしなぁ」こいしがノートを覗のぞき込んだ。
「海の近くのホテル、フェリーか」
流はノートの頁ページを繰った。
「電気」
流がぼそっとつぶやいた。
「なんぼお父ちゃんでも今回ばっかりは無理なんと……」「お父ちゃんな、明日から旅行に行くわ」
流がこいしの言葉を遮った。
「え? もう行先がわかったん?」
こいしが甲高い声を出す。
「どういう旅行やったか、大方の目星は付いた。ただ、そんな店があるかどうかや」流が腕組みをした。
「なんや。店はわかってへんのかいな」
こいしが声のトーンを下げた。