日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页

十、流星(14)

时间: 2025-06-27    进入日语论坛
核心提示:そこまで気心の知れた友人が、いまも昔もキングにはいない。キングは全員とまんべんなく楽しく過ごすが、それだけだ。キングは自
(单词翻译:双击或拖选)

  そこまで気心の知れた友人が、いまも昔もキングにはいない。キングは全員とまんべん

なく楽しく過ごすが、それだけだ。

  キングは自分が嫌いだった。嫌いだということだけはわかり、いまさら生きかたを変え

る術はわからないままだ。

  でも、走っているときはちがう。

  駅伝は一人でも欠けたら成り立たない。求められていることを実感できるし、遠慮もプ

ライドもかなぐり捨てて、支えあうことができる。だけど走るあいだは一人だから、他人

の思惑や人間関係のしがらみから解き放たれて、自分の心と向きあえもする。

  走っているときだけは、明るく調子よく振る舞う必要がまるでない。居場所を得ること

に汲きゆう々きゆうとし、ひとからどう見られているのか気になる心を、ひたすら御ぎよ

することに集中すればいい。

  キングは浜須賀の交差点を左折し、海沿いの道から離れて、藤沢方面へ北上をはじめ

た。左折したところが十キロ地点だ。背後で再び、大家がマイクを取った。

「いいペースだぞ。ハイジも、『キングはうまくリズムを立て直しましたね』と言ってい

た。現在、東体大との差は三十秒ある。こいつのことは、もう気にするな。それよりも、

後方から帝東大が追いあげてきているらしい。注意しつつ、いまのペースで進め。以上」

  聞こえた印に、両腕をまわした。五キロごとに、大家が律儀に声をかけてくるのは、清

瀬の意向が働いているためだろう。「きみをちゃんと見ている」と、大家を通して清瀬は

キングに告げる。だから安心して走っていいんだ、と。

  勝てねえなあ。キングは思う。俺はハイジには勝てない。

  藤沢警察署の脇を通りすぎるあたりから、雨が降ってきた。沿道の見物客は傘を差そう

ともせず、箱根駅伝の小旗を振って応援する。紙製の旗は、静かな霧雨のかわりに、揺れ

るたびパタパタと音を立てる。音は重なりあい、キングの前進にあわせて波のようにうね

りながらついてくる。

  沿道にひしめく、見知らぬ人々の顔をキングは見た。これから先、途切れることなく大

手町までつらなるだろう人垣。励まし、まえへうながすひとの声。

  藤沢駅前を避け、さらに北東へ進むと、内陸部にのびる国道一号にぶつかる。キングは

十五キロ地点で、雨合羽を着た給水要員からボトルを受け取った。初春の雨に、肌の内も

外も湿っている。それでも心を落ち着かせるために、気持ちばかり水分を口にした。

「『勝負どころだ。解答ボタンの用意はいいか?』。以上、ハイジからの伝言」

  と大家が言った。道端にボトルを投げ捨て、キングは両腕をまわして体の力を抜く。十

六キロ過ぎ、遊行寺の坂が見えてきた。

  クイズ好きのキングは、もちろん遊行寺についての雑学も仕入れ済みだ。

  遊行寺は時宗じしゆうの総本山だ。正式名称は、藤とう沢たく山さん無量むりよう光こ

う院いん清しよう浄じよう光こう寺じという。鎌倉時代に呑どん海かい上しよう人にんが

遊行寺を建てて以来、藤沢は門前町として栄えた。

  寺の由来を自分がちゃんと覚えていることに、キングは満足する。思い出せるだけの、

精神的余裕があることにも。ハイジ、待ってろよ。大手町でレクチャーしてやるからな。

  江戸時代には、江ノ島の弁天さまにお参りした人々が、藤沢宿を通り、この坂を上って

遊行寺にも詣でた。当時の景色の名残を、道はうっすらと残している。枝を張った大木は

常緑の葉に雨を受け止め、走るキングを守るかのようだ。

  それにしても、なんてきつい坂なんだ。文字で得た知識と、実際に走るのとはおおちが

いじゃないか。江戸時代のやつらは、ホントにこんな坂を上ったのか?

  キングはだんだん顎が上がってきた。坂自体は、一キロもない程度の長さだ。見た目に

はそれほど傾斜もしていない。車で通ったら、「坂なんてあったかな」と首をかしげるぐ

らい、あっというまに上りきってしまうだろう。だが、十六キロを走ってきたキングに

とっては、遊行寺の坂は箱根の山ほどにも感じられた。

  脚が重かった。アスファルトが泥に変わりでもしたのかと、思わず地面をたしかめる。

に煽られたツケがまわってきたらしく、道の起伏に応じた走りの切り替えがうまくいか

ない。背後から、見物客が振る旗のうねる音が迫ってくる。帝東大の選手が追いついてき

たのだろう。

  負けるもんか。ひきつるように呼吸をし、なりふりかまわず手足を振って進んだ。

  ハイジ。夢じゃないかと思う、っておまえは言った。俺は本当は、これが夢ならいいと

思ってるんだ。

  最初はみんな、おまえに引きずられて走りはじめただけだった。俺も調子に乗って、

「箱根駅伝?  よくわかんないけど、いいんじゃねえ」って、軽い気持ちでうなずいただ

けだった。一人だけ、取り残されるのがいやだったから。竹青荘のなかで、これ以上浮い

てる存在になりたくなかったから。

  だけど、いまはちがう。箱根駅伝はもう、ハイジ一人の夢じゃない。俺たち全員の夢に

なった。俺は走るのがおもしろくて、つらくても楽しくて。おまえらと同じものを目指す

のが、クイズの早押しと同じぐらいドキドキして……、だから走るんだ。

  俺はこんなに、だれかと濃密に過ごせたことはなかった。一緒に、心から笑ったり怒っ

たりしたことはなかった。たぶんこれからもないだろう。ずっとあとになって、俺はきっ

と、この一年を懐かしく切なく思い返す。

  俺はなあ、ハイジ。これが夢であってほしいと思うんだ。

  二度と覚めたくないほどいい夢だから、ずっとたゆたっていたいと思ってるんだよ。

「六道大学は、箱根で優勝することを定めづけられている」

  藤岡は静かに言った。キングが八区を走り終える二十分前のことだ。戸塚中継所の奥に

敷かれたビニールシートに、走は藤岡と並んで座っていた。

「選手のレベルだけではない。見込みのあるランナーを探しだすために、全国の中学と高

校に張りめぐらされた人脈。効果的なトレーニングを積むための施設と、優秀な指導者。

それらを維持するための豊富な資金力。すべてにおいて、六道大学は王者であり、勝って

当然の星のもとにある」

  誇るわけでもなく、藤岡は訥とつ々とつと言葉をつづける。走は納得した。いま座って

いるビニールシートも、六道大の陣地だ。藤岡には五人もの後輩がつきそって、出走まで

の世話をあれこれとする。花見の場所取りのように、ひとでごった返す中継所に陣地を確

保したのも、その後輩たちだ。走は藤岡に誘われ、そこにお邪魔しているのだった。

  つきそいの五人は藤岡に遠慮して、シートから少し離れたところに立っていた。ジョー

ジも藤岡の威厳に腰が引けたのか、藤岡の世話係たちとともにいる。時折心配そうに、走

のほうをちらちら見るが、近づいてはこない。

  箱根の王者・六道大のなかの、真の王者が藤岡だ。中継所に詰めかけた見物客すらも、藤

岡を畏れ敬うように遠巻きにする。嵐の夜にも泰然と大海原に浮かぶ巨大空母みたいに、

ビニールシートのうえだけは人混みとも喧噪とも無縁だった。

「優勝して当然なんて、苦しくないですか」

  と、走は尋ねた。

「苦しくはない。ひとは苦しみに慣れる」

  藤岡は、瞑想するように目を閉じた。「だが……、重い。俺は四年間、その重みに耐

え、重みを糧かてに走った。より強くなるために」

轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(10)
100%
踩一下
(0)
0%

热门TAG: