日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页

十、流星(18)

时间: 2025-06-27    进入日语论坛
核心提示:完璧な走りを体現する走も。それを見て静かな喜びと闘志を瞳に湛たたえる清瀬も。二人のレベルにはとても追いつけずとも、最後ま
(单词翻译:双击或拖选)

  完璧な走りを体現する走も。それを見て静かな喜びと闘志を瞳に湛たたえる清瀬も。二

人のレベルにはとても追いつけずとも、最後まで走り通した王子も。長距離の世界におい

て、だれもが等価で、平等な地平に立っている。

「そうですね」

  と、王子はうなずいた。諦めに似た充足感が、王子の胸に生じる。しばし黙って、清瀬

と王子は画面のなかの走を見ていた。しんみりした雰囲気を打ち壊すタイミングで、清瀬

の携帯に大家からの着信があった。

「ハイジハイジ、どうして連絡してこない?」

  大家はあせっているようだ。「もうすぐ五キロ地点だぞ。走になんと指示を出せばい

い?」

「なにも。声をかけないでください」

「しかし走は、沿道の声援にもまるで反応を示さないんだ。レースのプレッシャーに呑ま

れて、ぼんやりしてるように見える」

「いいえ、逆ですよ」

  清瀬は確信をもって答えた。「走はいま、極度に走りに集中しているんです。それを妨

げてはいけません」

  修行を積んだ僧が、座禅を組んで悟りをひらくように。単調なリズムで大地を踏んで、

シャーマンがトランス状態になるように。走は、「走る」という慣れた行為を通して、次

元のちがう境地へ至ろうとしている。

  たるみなく張った細い糸を、切れる寸前までなお引き絞ろうとしているのがわかる。緊

張と高揚が縁まで漲みなぎった器に、あと一滴のなにかを投じようと、走は無心にひた

走っている。

  邪魔をしてはならない。だれも走に触れてはならない。いまは。

  走は八キロ過ぎを走っていた。灰色の空の下、積もることのない雪が、わびしく絶え間

なく眼前をよぎる。

  片側一車線の、ゆるいカーブがつづく道。郊外の街道沿いには、二階建ての地味な商店

が並ぶ。走はこういう風景が好きだった。さびれている、と言ってもいいほど、なんの変

哲もないありふれた町。でも、ひとの生活するにおいがある。道のわずかな起伏はそのま

ま、そこを踏みしめて通った人々の歴史の刻印だ。

  一キロ三分を切るペースで、走は権太坂を難なく上りきった。道端の常緑樹は、黒い影

のように葉を繁らせている。

  正面に歩道橋が見えた。飾られた箱根駅伝の横断幕が、風をはらんでふくらんでいる。

道の両側には見物客がひしめいているのに、歩道橋にはだれも立っていない。戴くものの

ない王冠のように、道のうえに神妙に掲げられるばかりだ。

  権太坂の頂上からは、坂の終わる地点まで見通せる。その下り坂の途中に、あけぼの

大、甲府学院大、東体大の選手の姿を、走は認めた。頭の芯が熱くなる。獲物をまえにし

た肉食獣だ。しなやかな筋肉を伸縮させ、一息に、敏捷に、走り寄る。

  下りの勢いに乗って、走は一団に追いつき、追い越した。並んで様子を見るなどと、悠

長なことをするつもりはなかった。一気につき離してこそ、相手のやる気を殺そぐことが

できる。

  いくら走が抜いても、それは見かけの順番にすぎない。実質的なタイムでは、まだ寛政

大は東体大に遅れを取っているはずだ。だが、そうと気づかせてはいけない。「あの走り

には、どうしたってかなわない」と、ハッタリでもいいから知らしめることが有効だ。

  権太坂の下りで一キロ二分四十秒まで加速したペースを、坂を下りきったところで再び

一キロ二分五十五秒ペースに戻す。リズムに乗った走の体は、計算するまでもなく自然に

そのペースを選択した。

  三校を抜いて、十番目に浮上できた。走は頭の隅で考える。でも実質的な順位として

は、シード権獲得圏内に食いこめていない。九区の残りは、あと十五キロ弱。十区の二十

三キロと合わせても、寛政大に残された距離は四十キロに満たない。そのあいだに、タイ

ム差をひっくり返せるか?

  たりない。走はあせりと悔しさに歯 みする。もっと距離があれば、もっと走りつづけ

ることを許されれば、絶対に俺が抜いてやるのに。まえを行くチームをすべて抜いて、だ

れよりも速いタイムを叩きだしてやるのに。

  そう思った走は、ふと笑ってしまった。

  なんだか俺っていつも、永遠に走りたいと願ってないか?

  ちらつく雪。かつてはそのなかを、一人で走った。高校のグラウンドでも、ジョッグを

する河原でも、走はいつも一人だった。もちろんチームメイトはいたけれど、陸上につい

て話しあうほど親しくはなれなかった。

  走は、スピードとチームの連帯を重視する監督に逆らった。ひたすら自分自身と対話

し、自分のペースで黙々と走りこむことを好んだ。それでもなお、卓越したスピードを見

せる走を、チームメイトは遠巻きにした。蔵原は変人だから。蔵原は天才だから、と。

  そうじゃない、と高校生の走は叫びたかった。俺に特別な才能があるわけじゃない。だ

れよりも練習しているから、いいタイムが出るだけのこと。俺は走りたいだけなんだ、

と。

  どうして監督の言うがままに、部内の規律にばかり気をまわし、練習で極限まで疲れた

あとに、さらにたらたらと一時間もジョッグをしなければいけないのか。そんなやりかた

には意味がない、と走は感じた。無茶な練習や根性論で、本当に速くなれるのか?  とて

もそうは思えない。だって、俺よりいいタイムを出すやつが、いつまでたっても現れない

じゃないか。

  監督や上級生に怒られないように、従順に「部活動」をこなすチームメイトが、走には

理解できなかった。走はもっと自分の心身に正直に、走るという行為に没頭していたかっ

た。

  高校生のころ、走はさびしかった。走りに対する自分の姿勢や考えが、まちがっている

とは思えない。周囲になにを言われようと、自分のやりかたを貫いた。だが走れば走るほ

ど、走は一人になった。スピードは称賛と引き替えに、走からひととまじわる喜びを奪っ

ていくものだった。

  延々とつづく楕円のトラック。走はそこに閉じこめられるのがいやだった。だが、逃げ

だすこともできない。走は高校に、陸上推薦で入学した。授業料は免除されている。走の

両親は、息子が持つ陸上の才能に期待をかけている。逃げて、いったいどこへ行けるだろ

う。

  そしてなによりも、走るという行為が、走をとらえて離さなかった。どんな称賛も一時

のもの。走が走りに打ちこめば打ちこむだけ、孤立は深まる。それはわかっていたが、走

りやめることはどうしてもできなかった。

  チームメイトのやっかみと、足の引っ張りあい。強制される練習と規律。それらに抗あ

らがい、でもどこにも行けない。一人きりで、いつまで走りつづければいいのか、ゴール

が見えない。閉塞感に息がつまりそうだった。

  いまはちがう。胸にかかった寛政大の襷に、走はそっと触れた。この一年で走は変わ

り、そして知った。

轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(10)
100%
踩一下
(0)
0%

热门TAG: