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《寒山拾得》
时间:
2014-02-01
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核心提示: 久しぶりに漱石(そうせき)先生の所へ行つたら、先生は書斎のまん中に坐つて、腕組みをしながら、何か考へてゐた。「先生、ど
(单词翻译:双击或拖选)
久しぶりに
漱石
(
そうせき
)
先生の所へ行つたら、先生は書斎のまん中に坐つて、腕組みをしながら、何か考へてゐた。「先生、どうしました」と云ふと「今、護国寺の三門で、運慶が仁王を刻んでゐるのを見て来た所だよ」と云ふ返事があつた。この忙しい世の中に、運慶なんぞどうでも好いと思つたから、浮かない先生をつかまへて、トルストイとか、ドストエフスキイとか云ふ名前のはいる、六づかしい議論を少しやつた。それから先生の所を出て、元の江戸川の終点から、電車に乗つた。
電車はひどくこんでゐた。が、やつと隅の
吊革
(
つりかは
)
につかまつて、懐に入れて来た英訳の
露西亜
(
ロシア
)
小説を読み出した。何でも革命の事が書いてある。労働者がどうとかしたら、気が違つて
[#「違つて」は底本では「違って」]
、ダイナマイトを
抛
(
はふ
)
りつけて、しまひにその女までどうとかしたとあつた。
兎
(
と
)
に
角
(
かく
)
万事が切迫してゐて、暗澹たる力があつて、とても日本の作家なんぞには、一行も書けないやうな
代物
(
しろもの
)
だつた。勿論自分は大に感心して、立ちながら、
行
(
ぎやう
)
の
間
(
あひだ
)
へ何本も色鉛筆の線を引いた。
所が
飯田橋
(
いひだばし
)
の乗換でふと気がついて見ると、窓の外の往来に、妙な男が
二人
(
ふたり
)
歩いてゐた。その男は二人とも、同じやうな
襤縷々々
(
ぼろぼろ
)
の着物を着てゐた。しかも髪も
髭
(
ひげ
)
ものび放題で、如何にも古怪な顔つきをしてゐた。自分はこの二人の男に何処かで
遇
(
あ
)
つたやうな気がしたが、どうしても思ひ出せなかつた。すると隣の吊革にゐた道具屋じみた男が、
「やあ、又
寒山拾得
(
かんざんじつとく
)
が歩いてゐるな」と云つた。
さう云はれて見ると、成程その二人の男は、
箒
(
はうき
)
をかついで、巻物を持つて、
大雅
(
たいが
)
の画からでも脱け出したやうに、のつそりかんと歩いてゐた。が、いくら売立てが
流行
(
はや
)
るにしても、
正物
(
しやうぶつ
)
の寒山拾得が揃つて飯田橋を歩いてゐるのも不思議だから、隣の道具屋らしい男の
袖
(
そで
)
を引張つて、
「ありや本当に昔の寒山拾得ですか」と、念を押すやうに尋ねて見た。けれどもその男は至極
家常茶飯
(
かじやうさはん
)
な顔をして、
「さうです。私はこの間も、商業会議所の外で遇ひました」と答へた。
「へええ、僕はもう二人とも、とうに死んだのかと思つてゐました。」
「何、死にやしません。ああ見えたつて、ありや
普賢文殊
(
ふげんもんじゆ
)
です。あの友だちの
豊干
(
ぶかん
)
禅師つて大将も、よく虎に
騎
(
の
)
つちや、銀座通りを歩いてますぜ。」
それから五分の
後
(
のち
)
、電車が動き出すと同時に、自分は又さつき読みかけた露西亜小説へとりかかつた。すると一頁と読まない内に、ダイナマイトの臭ひよりも、今見た寒山拾得の怪しげな姿が懐しくなつた。そこで窓から
後
(
うしろ
)
を透して見ると、彼等はもう豆のやうに小さくなりながら、それでもまだはつきりと、
朗
(
ほがらか
)
な晩秋の日の光の中に、箒をかついで歩いてゐた。
自分は
吊革
(
つりかは
)
につかまつた儘、元の通り書物を懐に入れて、
家
(
うち
)
へ帰つたら早速、漱石先生へ、今日飯田橋で寒山拾得に遇つたと云ふ手紙を書かうと思つた。さう思つたら
[#「思つたら」は底本では「思ったら」]
、彼等が現代の東京を歩いてゐるのも、
略々
(
ほぼ
)
無理がないやうな心もちがした。
(声明:本文内容均出自日本青空文库,仅供学习使用,勿用于任何商业用途。)
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