一
ある日の事でございます。
やがて御釈迦様はその池のふちに
するとその地獄の底に、
御釈迦様は地獄の容子を御覧になりながら、この陀多には蜘蛛を助けた事があるのを御思い出しになりました。そうしてそれだけの善い事をした
二
こちらは地獄の底の血の池で、ほかの罪人と一しょに、浮いたり沈んだりしていた
ところがある時の事でございます。
こう思いましたから
しかし地獄と極楽との間は、何万里となくございますから、いくら
すると、一生懸命にのぼった甲斐があって、さっきまで自分がいた血の池は、今ではもう暗の底にいつの間にかかくれて居ります。それからあのぼんやり光っている恐しい針の山も、足の下になってしまいました。この分でのぼって行けば、地獄からぬけ出すのも、存外わけがないかも知れません。陀多は両手を蜘蛛の糸にからみながら、ここへ来てから何年にも出した事のない声で、「しめた。しめた。」と笑いました。ところがふと気がつきますと、蜘蛛の糸の下の方には、
そこで陀多は大きな声を出して、「こら、罪人ども。この蜘蛛の糸は
その途端でございます。今まで何ともなかった蜘蛛の糸が、急に陀多のぶら下っている所から、ぷつりと音を立てて
後にはただ極楽の蜘蛛の糸が、きらきらと細く光りながら、月も星もない空の中途に、短く垂れているばかりでございます。
三
しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には
(大正七年四月十六日)
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