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薔薇と巫女(2)

时间: 2022-12-05    进入日语论坛
核心提示:二ふと、彼は、この時清水の湧き出る音を聞き付けた。この沙原に清水のあることが解った。水の音は何方どちらからともなく聞えて
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ふと、彼は、この時清水の湧き出る音を聞き付けた。この沙原に清水のあることが解った。水の音は何方どちらからともなく聞えて来る。耳を左に傾ければ左の方に当って聞えた。その方へと歩んで見ると、水の音は、どうやら右の方に当って聞える。地底から湧き出て、沙を吹き上げる泡立つ音は、さながら手に取るように聞えて来る。その時右の方に歩みを変えた。すると水の音は、後方になって、次第に遠ざかるようにも思われた。
彼はただこの泉を見出しさえすれば、また自分の行くべき道が其処から見出されると考えたのである。必ずこの泉の辺りに来た人は自分がはじめてな訳ではない。既に幾人もこの泉を汲んだであろう。其等それらの人々の踏んで来、踏んで去った足跡は、自然、微かな道となって、この仄白ほのじろい月の下に認めることが出来るだろう。

この時、月は雲におおわれた。一面に沙原は薄暗くなった。して月を隠した雲の色は、黒と黄色に色彩いろどられて、黒い鳥の翼の下に月が隠れたように見えた。
身に悪痛いたみを感ずるような寒気が沙原に降る。怖れとおどろきにいずれの方角を撰ぶという余裕がなかった。彼は闇の中に幾たびかつまずいた。そのたびに柔かな沙地にひざまずいた。最後に、急な崖から転倒した。刹那せつなに冷汗が脊に流れた。自分では深い、深い谷に落ち行くような気がしたが、不思議に怪我もせずに沙の中に倒れた。
彼は、倒れたまま空を仰ぐと、月は、黒雲を出て以前と同じように沙原を照らしている。其処も同じく沙地であったが、丘が見えない。たいらな沙地が、地平線の遠くにまで接している。南の方と思われた。雲のすそが明るくれて、上は濃い墨を流したように厚みのある黒い線をひいている。
さながら、その地平線に咲き出た花のように、一輪の花が眼の前に頭をもたげている。
彼は、十歩余りで、その花に近づくことが出来た。それは病めるようなこのおぼろ月の下に咲いた黄色な薔薇ばらの花であった。
この時、水をたずねたように香を嗅ごうと焦った。而して花に鼻を触れて見たけれど、花には何の香というものもない。
誰か造り花をこの沙原に来て挿したのではあるまいか。
急に、南の風が吹いて来た。明るく一直線に雲断れのした空は物凄かった。南の風は、人間しくは、これに類した死ぬべき運命を持った生物の、吐く息のように生温かであった。急に頭が重くなって眼がまわるように感じた時、眼前に咲いた黄色な薔薇の花は、歯の抜けるように音なく花弁が朽ちて落ちた。

 

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