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港に着いた黒んぼ(1)_小川未明童話集_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:港に着いた黒んぼ小川未明やっと、十とおばかりになったかと思おもわれるほどの、男おとこの子こが笛ふえを吹ふいています。その
(单词翻译:双击或拖选)
 
一人ひとりなれないおとこが、あねまえすすました。
「このまち大尽だいじんのお使つかいでまいったものです。ちょっと大尽だいじんがおにかかっておはなししたいことがあるからいらっしてくださるように。」といいました。
あねは、これまでこんなことをいったものが、幾人いくにんもありましたから、またかとおもいましたが、その大尽だいじんというのは、こえている大金持おおがねもちだけに、むすめはすげなくことわることもできないというがして、すくなからず当惑とうわくいたしました。
「どんなごようがあって、わたしにあいたいともうされるのですか?」と、あねは、その使つかいのおとこにたずねました。
わたしにはわかりません。あなたがいらしてくださればわかることです。けっして、あなたのおにとってわるいことでないことだけはたしかであります。」と、そのおとここたえました。
「わたしは、おとうといて、どこへもいくことはできません。おとうとれていってもいいのでしょうか?」と、あねはたずねました。
おとうとさんのことは、いてきませんでした。大尽だいじんは、なんでもあなた一人ひとりに、おにかかっておはなしをしたいようです。けれどけっして手間てまらせません。あすこへ馬車ばしゃってきています。それに、も、まだまったくれるにはがありますから……。」と、そのおとこはいいました。
あねは、だまって、しばらくかんがえていましたが、なんとおもったか、
「そんなら、きっと一時間じかん以内いないに、ここまでかえしてくださいますか。」と、おとこかってたずねました。
「おそらく、そんなには時間じかんらせますまい。どうか、せっかく使つかいにまいったわたしかおをたてて、あの馬車ばしゃって、一こくはや大尽だいじん御殿ごてんへいらしてください。いまごろ大尽だいじんは、あなたのえるのをおちでございます。」と、おとこはいいました。
あちらに、くさうえにすわって、ふえっておとなしく、おとうとは、あねのくるのをまっていました。
あねは、思案しあんしずんだかおつきをして、着物きもののすそを夕風ゆうかぜになぶらせながらおとうとのそばへ、はだしのまま近寄ちかよってきました。そして、えぬながら微笑ほほえんで、あねむかえた、おとうとかって、
ねえさんは、ちょっと用事ようじがあっていってくるところがあるのよ。おまえは、どこへもいかずに、ここにってておくれ、すぐにねえさんはかえってくるから。」と、やさしくいいました。
おとうとは、盲目めくらを、あねほうけました。
ねえさんは、もうかえってこないのではないの。ぼくは、なんだかそんなようながするんだもの。」といいました。
「なぜ、そんなかなしいことをいうの。ねえさんは、一時間じかんとたたないうちにかえってきてよ。」と、あねは、なみだをためてこたえました。
おとうとは、やっとあねのいうことがわかったみえて、だまってうなずきました。
あねは、使つかいのおとこにつれられて、いかめしい馬車ばしゃりました。馬車ばしゃは、ひづめのおと砂地すなじうえにたてて、日暮ひぐがたそらしたをかなたにりました。
おとうとは、そのひづめのおととおく、かすかに、まったくこえなくなるまで、くさうえにすわって、じっとみみましていました。
時間じかんはたち、二時間じかんはたっても、ついにあねかえってきませんでした。いつしか、はまったくれてしまって、砂地すなじうえは、しっとりと湿しめふくみ、よるそらいろは、あいながしたようにこくなって、ほしひかりがきらきらとまたたきました。みなとほうは、ほんのりとして、ひとなつかしいあかるみをそらいろにたたえていたけれど、盲目めくらおとうとには、それをのぞむこともできませんでした。
ただ、おりおり、生温なまあたたかなかぜおきほうから、やみのうちをたびしてくるたびに、あねかえるのをっているおとうとかおたりました。おとうとは、もはやたえられなくなって、いていました。そして、あねは、どこへいったろう。もうこれぎりかえってこなかったらどうしようと心細こころぼそくなって、なみだながれてまらなかったのであります。
いつもあねは、自分じぶんふえにつれて、おどったとおもうと、おとうとは、もし自分じぶんいたふえきつけたら、きっとあねは、自分じぶんおもしてかえってきてくれるにちがいないとおもいました。
おとうとは、熱心ねっしんふえらしました。かつて、こんなにこころれて、ふえいたことはなかったのであります。あねは、このふえをどこかできつけるであろう。きつけたら、きっと自分じぶんおもしてかえってきてくれるにちがいない、と、おとうとおもいました。おとうとは、それで、熱心ねっしんふえらしました。
ちょうど、ここに一白鳥はくちょうがあって、きたうみ自分じぶん子供こどもをなくして、こころいためて、みなみほうかえ途中とちゅうでありました。
白鳥はくちょうだまって、やまえ、もりえ、かわえて、あおい、あおうみとおあとにして、みなみほうをさしてたびをしていました。白鳥はくちょうつかれるとながれのほとりり、つばさやすめて、またたびのぼりました。かわいい子供こどもをなくして、白鳥はくちょうは、うたにもなれなかったのです。ただ、だまってくらよるを、ほししたけていました。
白鳥はくちょうは、ふと、かなしいふえをききました。それは、普通ふつうひとふえ音色ねいろとはおもわれない。なんでもむねになやみのあるものが、はじめてこんなふえ音色ねいろることを白鳥はくちょうりました。白鳥はくちょうは、子供こどもをなくして、しみじみとかなしみをあじわっていましたから、そのふえ音色ねいろをくみとることができたのです。
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