九
赤い爛れた目のようなランプの下で、女は東を向いて、仕事をしている。ランプはジ、ジー、ジ、ジーと鳴り出した。夜は、次第に深くなった。力のない目を見張ったような灰色の壁はぼんやりとしている。白い土器はいつ、そこに置かれたか永遠の問題として、みずから黙って時の外に超越していた。
森が、次第に垂れ下がった、厚い、縫目のない、黒い、重い、夜の大きな翼の下に押されて、無理に上を向いて接吻している。風は、折々、
その泣声は、耳についている泣声である。死んだ子供の泣声である。たしかに森のかなた、白い花の咲いている木の下から起って、木と木の間を通り、藪を抜けてここまで聞えて来る。
女は、始めてせなければならぬ仕事をそこに投げ捨てた。一種の怖しさに手が
なおも耳を傾げている。断続的に吹く風がやんで、天地がしんとすると、遠くから歩いて来る小さな足音。とぼとぼとあちらにさまよい、こちらにさまよいながら、ふと、窓近くなるとぷつりと止った。誰かが、家の内を覗いているらしい。立聞きをしているらしい。女は、一夜、泣声と足音に、苦しめられた。
女は、家に帰って、白い土器を持って来た。それを土に埋めて、中に水を入れ、上の白い花の枝を手折って
頃は、初夏である。白い雲が、森の上に湧き出た。