年齢を重ねれば物忘れがひどくなることはよく知られています。話したいことが思い出せなくなると、自分もトシかな、を考えたりします。記憶場所となる脳細胞の成長が②0歳くらいで終わり、後は少しずつ死滅しています。
しかし、世の中には、90歳を超えてもしゃんとしている人もいます。そんな人たちの特徴は、好奇心が旺盛で異性への興味を失わない、ということのようです。つまり、忘れる以上に新しいことを覚えることができたらボケない、と言えると思います。
ところが、若年性健忘症の場合、同じ物忘れでも脳には何の異常もない、とされています。コンピューター風に言えば、ハードには問題ないが、記憶したことを思い出すための検索用ソフトに問題がある、という言い方ができると思います。若年者は当然のことながら肉体が若いため使える脳細胞が少なくなっている、とは考えられません。一度覚えたことを思い出すためのメカニズムに何らかの異常が起きている、と考えるのが自然です。
人はどうやって覚えたことを検索し、思い出しているのでしょうか?
怒ったときに、かつて怒ったときの記憶が蘇るように、感情が記憶に強く関与していることは知られています。また音や匂いや皮膚感覚も記憶を鮮明に蘇らせてくれます。覚えたことを思い出すための、検索のためのキーワードには、感情や感覚が複雑に絡み合っている、と言えると思います。
適切なキーワードを組み合わせないと目的の情報がなかなか見つからないように、生活に感情や感覚の変化が少なくなると、物を思い出しにくくなる、と言えそうです。たとえば苦手な人に自分から話しかけてみることが苦くてよい刺激になりそうです。
しかしなぜ意識してまで自分に刺激を与える必要があるのでしょうか?それはこういうことではないか、頼りすぎると我々の足腰を弱らせてしまう危険な機械でもあります。一方、炊飯器からPCまで我々を取り巻く便利な機械の多くにはコンピューターが組み込まれていますが、これらは我々の能力を拡張してくれる便利な機械であると同時に、頼りすぎるとその分、脳の働きを弱めてしまう危険な機械でもあります。若年性健忘症という脳力の低下の原因はそれではないかと思います。
(2005年3月10日心理コラム「若年性健忘症の原因は何か?」による)
1、「二十代三十代の若い人でも、仕事が続けられなくなるくらい深刻な物忘れに悩む人が増加している」とあるが、その原因として筆者があげているものは何か。
①記憶場所となる脳細胞が②0歳くらいで終わって、後は死滅してしまうから。
②年を取るほど好奇心が薄れ、異性への興味を失ってしまうから。
③我々を取り巻く便利な機械に頼り過ぎて、脳の働きを弱めてしまったから。
④忘れる以上に新しいことを覚えることができなくなってしまったから。
2、「若年性健忘症」の原因として本文の内容と合っているものを一つ選びなさい。
①記憶場所となる脳細胞の成長が②0歳くらいで終わること。
②忘れる以上に新しいことを覚えることができること。
③肉体が若いため、使える脳細胞が少なくなっていないこと。
④脳内のメカニズムに起きている何らかの異常。
3、「意識してまで自分に刺激を与える必要があるのでしょうか?」とあるが、実際はどうなのか。
①生活に感情や感覚の変化が少なくなると物を思い出しにくくなるので、その必要があるといえる。
②我々を取り巻く便利な機械が脳力を拡張してくれるため、その必要はない。
③便利な機械に頼り過ぎさえしなければ、その必要はない。
④無理に刺激を与えようとするとストレスを受けるので、その必要はない。
4、次のうち、本文の内容と一致するものを一つ選びなさい。
①若年性健忘症の原因は脳細胞の異常で使える脳細胞が少なくなっているからだ。
②記憶は感情とは強く結びついているが、匂いや音や皮膚感覚は関与していない。
③若者の物忘れは、使える脳細胞が減っているのが原因だとは考えられない。
④若者の深刻な物忘れは会話不足に起因しており、他の原因は考えられない。