引きこもるというのは、部屋にじっと閉じこもって、外には一切出ないという場合もありますが、外出できる人もいるのです。しかし、そこで人とコンタクトを取るという段になると、それができない、もしくは怖くて拒絶してしまう。一種の対人恐怖の心理が働くようです。
では、引きこもる彼らは、なぜそのような状態にまで、追い詰められたのでしょう。いじめ・対人関係のトラブル・不登校などの出来事がきっかけで引きこもりが始まったという場合もありますが、一方でそうした顕著な出来事もないというケースがあり、両親にしてみたら、後者が一番分からないでしょう。大した出来事もないのに、ある日を境に引きこもってしまった。一体なぜなんだと親は頭を悩ますことになります。
しかし、人がある行動を選択するには、必ず理由があります。引きこもりという行為を選択せざるを得なかった理由・動機があるわけです。言い換えれば、彼らはどこか目に見えないところで確実に追い詰められ、耐え切れないというところまできてしまったギリギリの選択に違いないのです。
引きこもる人たちは一般的に言うと傷つきやすい人たちです。彼らは周りの人間に比べ、とても鋭い感受性を持っています。心のアンテナの感度が極めて敏感なのです。彼らは周りの人間に比べ、とても見抜けるということです。本来それは長所であるはずですが、感度の高いアンテナには副作用もあります。人の善意だけでなく、ほんのちょっとした嘘とかいじわるといったネガティブな感情も恐ろしいくらいに拾ってしまうからです。そのため、ちょっとしたことでも、本人は深く傷つくことになります。
例えば、親が何か子供に言った時に、親は我が子のためを思っているつもりでも、そこにわずかでも世間体や親の面子を気にする気持ちが入っていると、彼らはそのことが許せず、傷つくのです。しかし、親からすると、子供のためを思って言っているのに、どうしてそれほどまでに傷つくのか、とても理解できません。そして子供に「お前はわがままだ」とか「弱い奴だ」などと非難を浴びせてしまいます。その結果、彼らは二重、三重に傷つけてしまいます。そうやって、周りの人々の無理解に何度も傷づけられていくうちに、人と関わることそのものがだんだんと怖くなっていきます。今まで親を含めて、人とかかわる度に傷ついてきたからです。
引きこもると言っても、決して家の中が居心地が良いわけではありません。家にいるのも不快、けれども外に出るのはもっと怖い。彼らは自分の精神的な居場所がどこにも見つけられず、家に引きこもるしか手段がないわけです。しかし、親はそうした心の叫びを理解することができず、目に見える現象面にしか反応してくれません。子供がどんな気持ちで引きこもっているのかが見えないのです。子供自身も、一体自分はどんな愛情によって救われるのかが分からないのです。これは子供にとっては恐怖ですし、とても不安なことです。そうした絶望感や苛立ちが、時として家の中で暴れたり親に暴力を振るうとかいった行為として現れることにもなるのです。
人の心の迷いや不安や葛藤に共感するためには、まず自分自身の中にも同じような弱さや不安や葛藤があることを認めなくてはなりません。弱さや不安や葛藤のない人間など、この世にはいないからです。己の弱さが認められない人は他人の弱さも許せません。逆に己の弱さを認められる人こそ、人の弱さを受け入れ、共感できる人です。傷ついた経験のあるあなたなら、きっと他人の痛みが理解できるはずです。引きこもりの問題、引きこもりの心理を考えることは、そうしたことを私たちに教えてくれるきっかけになると私は思います。
(スズキ雅幸「引きこもりの心理」より)
1、「そのような状態にまで」とはどのような状態か。
①部屋にじっと閉じこもる状態。
②一切外出ができなくなる状態。
③怖くて、人と接触できない状態。
④精神的な居場所がない状態。
2、「心のアンテナ」とは何のことか。
①対人恐怖の心理
②傷つきやすさ
③感受性
④世間体
3、「感度の高いアンテナには副作用もあります。」とあるが、それはどのような副作用か。
①いじめや人間関係のトラブルに遭いやすいこと。
②相手の嘘や悪意がわかって、心が傷つくこと。
③人の善意が信じられなくなること。
④人と関わることがだんだんと怖くなること。
4、「しかし、親からすると、子供のためを思って言っているのに、どうしてそれほどまでに傷つくのか、とても理解できません。」とあるが、なぜ親たちは理解できないのか。
①引きこもる人たちが、とても傷つきやすい人たちだということを、親たちは知らないから。
②自分の子供がわかままで、他の子供に比べて弱い人間だと思っているから。
③子供が、引きこもりという行為を選択せざるを得なかった、ほんとうの理由を知らないから。
④自分の言葉の中に含まれている世間体や面子を気にする気持ちを、子供が敏感に見抜いていることに気づいていないから。
5、「これは子どもにとって恐怖です」とあるが、「これ」はどのようなことを指しているか。
①人と関わることで自分が傷つくこと。
②精神的な居場所がどこにも見つけられないこと。
③親が自分の気持ちを理解してくれないこと。
④自分がどんな愛情によって救われるかわからないこと。
6、筆者がこの文章で一番に言いたいことはなにか。
①引きこもりの人たちのために精神的な居場所を見つけてあげること。
②自分の中にも引きこもりの人と同じ弱さや不安があることを認めること。
③引きこもりの人に対して、「弱い奴だ」などと非難を浴びせないこと。
④引きこもりの人たちの絶望感や苛立ちを理解してあげること。