しかし、ホームで並ぶことと電車で席を譲ることとは本質的に違う。自分の利益を考えて席を譲るのではないし、「お年寄りに席を譲りましょう」という指示に従って譲るのでもない。言葉のない何かしらの内なる声に引っ張られ、人は自発的に席を譲るのである。それは共同体に道徳をもたらす元の力であり、この力にはまだ言葉がない。この力は、「人間が生きていくには共同体が要る」という事実から生まれている。この力は潜在的ではあるが、抽象的ではない。そこから知性を越えた「仲間を助けよう」という本能的な欲求が突然生じるのである。群れの中に生まれ落ちた人間という知性動物の倫理の原液が正にここにある。
(前田英樹「倫理という力」より)
1、「ホームで並ぶことと電車で席を譲ることとは本質的に違う」とあるが、筆者はどのように違うと考えている。
①前者は知性的、後者は本能的
②前者は本能的、後者は知性的
③前者は利己的、後者は利他的
④前者は利他的、後者は利己的
2、「それは」とあるが、何を指しているか。
①知性
②損得の判断
③内なる声
④倫理
3、「倫理の原液」とあるが、その説明として正しいのはどれか。
①個人の心の中にある社会の役に立ちたいという欲求である。
②人を含む生き物が自分の身を守ろうとする自己保存の本能である。
③人間という知性動物がもつ、集団に適応しようとする欲求である。
④集団を作ってしか生きていけない人間の心に潜む相互扶助の欲求である。