お箸は米を主食にする国で使われるが、それぞれの国の調理方法によって、長短太細がある。使い慣れればどれも同じなのだろうが、中華料理で出される象牙風の円筒型の長めの箸は、どうも使い勝手がいいとは思えない。あの寸胴に切り揃えた先は、小さいものを摘むのには向いていない。中華料理は材料をみんな一口大に揃えてあって、鯵一尾丸ごと塩焼きなどは出てこないのだろうから、困らないのかもしれない。
同じ米でもインドになれば、素手のまま上手に品よく口へ運ぶ。( )指の先の感覚でおいしさを知るのだと聞かされると、日本人の喜ぶジャポニカ米より粘り気の少ない米を好む国の食べ方は、また別のものなのだと思う。
子供の時、親から箸の持ち方を度々注意されて、うっとうしく思った覚えがあるが、それもいつのまにか慣れてしまえば、こんなに単純で、しかも使いよいものはない。
近頃は、日本人顔負けの箸を達者に使う外国人を、よく見かけるようになった。洋の東西を問わず、手の器用な人はいくらでもいて不思議はないのに、箸を使う外国人に対して、我々はぐっと親しみを持つ。もし他国の人が、ナイフ、フォークで食事をする日本人を見ても、特に感じることはなく、少しぎこちない食べ方だなと思うくらいのことだ。この差は何なのだろう。多分、日本人がものを食べるとき、箸を特別なもの、自分と直結しているものとして使っていることにあるかと思う。
料理を口に運ぶ時、箸を口に入れたとは感じない。料理が口に入ったとしか思っていないのだ。箸は敏感な口のどこにも触らず、適量の食べ物を巧妙に運んでいる。これは箸以外のものでは出来ないことだと思うのは、こちらの思い過ごしだろうか。
食事をとることは、命につながる大事なことだが、人はそれだけでは満足しない。加えていかにおいしく食べるかは、最大の楽しみである。口に食べ物以外のさじやフォークが触ることは、大したことではないが、なにか邪魔な気がする。箸は知らず知らずのうちに、邪魔にならずに食事を助けている。道具というより、手の一部、もしくはそれ以上の役目を果たしているのだと思う。
(青木 玉 「底のない袋」より)
1、( )に入るものとして、最も適当なのはどれか。
①あるいは
②したがって
③それなのに
④しかも
2、「お食い初め」という言葉は、聞く度に何か胸にしみるものがある」とあるが、筆者は「お食い初め」という言葉に何を感じるのか。
①あからさまさ
②子を思う親の愛情
③庶民への親しみ
④ユーモア
3、「箸を達者に使う」とあるが、この「達者に」はどのような意味で使われているか。
①げんきに
②じょうずに
③いそいで
④しっかり
4、「この差は何なのだろう」とあるが、筆者はどうして「この差」が生まれたと考えているか。
①ナイフ、フォークより、箸の方が使いやすいから。
②現在でも箸を使える外国人は珍しいから。
③日本人は箸を使う外国人に対して親しみを感じるから。
④日本人にとって箸は単に物を食べるだけの道具ではないから。
5、「いかにおいしく食べるかは、最大の楽しみである」とあるが、箸はおいしく食べるために、どのように役に立っているか。
①箸は口のどこにも触らず、口に適量の食べ物を運ぶことができる。
②小さい物を摘むのには、ナイフ、フォークより、箸のほうが便利である。
③ご飯やおかずを摘んだとき、箸の先でおいしさを知ることができる。
④箸はご飯やおかずの味を一層おいしくする調味料の役目をしている。
6、箸についての筆者の考え方と合っているのはどれか。
①箸は物を食べる道具として、ナイフ、フォークより機能的優れている。
②手で食べるよりも箸で食べる方が、衛生的であり文明的である。
③日本人にとって、箸は手の一部とも言うべき、自分と直結したものである。
④箸はナイフ、フォークより、使い慣れるまでに時間がかかる。