なぜ、地球上の水不足は起こるのでしょうか。そのもっとも大きな原因は、人口の増大により水の需要が増えるためです。国連の調査資料によると、1995年の世界の水使用量は3兆5720億立方メートルで、人口83億人と予想される2025年には、1.4倍の4兆9130億立方メートルになると予想されます。(1)そのため世界で水不足の状態におかれる人口の割合は、1995年の3分の1から、2025年には3分の2に拡大するとみられます。
人口が増えれば食料や工業製品の生産も拡大し、農業用水や工業用水の需要も増加します。一方、水源のほとんどは河川で、しかも存在する水量は一定で、増えることはありません。( 2 )、需要が増加したらといって、どんどん使い続けていったら、やがて不足することは目に見えています。その上、産業排水や生活排水の処理が不十分なため、水質汚染が進み、使える淡水はさらに減り続けています。
すでに現在でも、大きな河川がなく、降水量が少ない乾燥地帯にある開発途上国を中心に、深刻な水不足が増大しており、アジア、アフリカなど31カ国で絶対的な不足に悩んでいます。その結果、12億人が安全な飲料水が確保されず、年間500万~1000万人が水が原因で死亡しています。このような途上国地域では排水処理設備の整備も遅れているため、病気の80パーセントは汚れた水が原因で、それにより子どもたちが8秒に1人が死亡していると、(注1)WTOは報告しています。
幸い私たちの住む日本では、水にそれほど不自由していませんが、よその国の話だとのんびりかまえていていいのでしょうか。世界の水不足は日本にどんな影響を与えるのでしょうか。わが国は世界でも比較的降水量が多く、水は豊富にあるように思われますが、大量の水を( 3 )していることを知っている人は少ないようです。日本は農産物や木材、工業製品など、大量の水を使って作られている製品の輸入国で、農産物では豆類、小麦などは90パーセント程度を、繊維製品は全需要量の60パーセントを輸入に頼っています。また日本の木材輸入量は世界第1位で、世界全体の25パーセントを占めています。このように日本は世界中からさまざまな製品を輸入しているわけですが。製品を通して世界中の水を輸入していると言ってもいいのです。その量は輸入農産物だけについてみても、その生産に必要な水量は年間約50億立方メートルと計算されています。これは約4000万人分の生活用水使用量(注2)に匹敵します。(4)日本経済は、この目に見えない水の輸入によって成り立っているです。
今、お隣の国中国も深刻な水不足に悩んでおり、1997年、黄河は海に上流からの水が到達しない日が、過去最高の226日を記録しました。このような水不足により、中国の穀物生産は1999年から三年間で500万トンも減少しています。中国から大量の食料品、衣料品、工業製品を輸入しているわが国としては、もし水不足の影響で中国から品物が入ってこなくなったとしたら、経済的に大きな打撃をうけます。ですから、よその国の水不足は、私たちの生活や経済にとって決して無関係ではないのです。 (注1)WTO:世界保健機構。国連の専門機関の一つ。
(注2)~に匹敵する:自分の意志とは関係なく、一方的に与えられること。
問1 (1)「そのため」というのは、なにを指しているか。
1.排水処理設備の整備の遅れ。 2.降雨量の減少。 3.工業用水の需要の増加。 4.人口の増大。
問2 (2)に入る適当な語はどれか。 1.また 2.しかし 3.それに 4.したがって
問3 (3)に入る適当な語はどれか。 1.海外から輸入 2.海外へ輸出 3.海外で生産 4.国内で消費
問4(4)「日本経済は、この目に見えない水の輸入によって成り立っているです。」とあるが、「目に見えない」とはどういうことか。
1.日本は世界中から水を輸入しているので、どの国で水不足が起こっているか知らないでいること。
2.日本は多くの農産物や工業製品を輸入しているが、それらの生産に大量の水が消費されていることに、私たちが普段気づかないでいること。
3.新聞やテレビなどであまり取り上げられることがないので、どれほど水を消費しているか、多くの日本人が知らないこと。
4.日本は降水量も多く、水が豊富にあるので、水の大切さを普段は気づかないまま生活していること。
問5 筆者は日本の水の状況についてどう考えているか。
1.日本は降水量が多く、水不足になる恐れはないだろう。
2.日本はすでに海外からの水の輸入に頼らなければやっていけない状況にある。
3.日本は開発途上国からの農産物や工業製品の輸入を少なくする必要がある。
4.地球温暖化が進むと、地球規模で降水量が減り、日本もその例外ではない。
問6 筆者はこの文章を通して何を読者に訴えているか。
1.毎日の暮らしの中で、水を大切に使うようにしよう。
2.地球人口の増加を少なくする方法を考えよう。
3.深刻な水不足に悩んでいる開発途上国を援助しよう。
4.よその国で起こっている水不足を、自分たちの問題として考えよう。