難しい障壁があるとき、当初の目標の達成を断念して、その代わりに、元の目標と類似したほかの目標を達成することによって、要求の充足を図ることを代償行動という。テニスが雨のためできなくなるとピンポンをしたり、A社に入社できなかった学生が、それと同じ系統のB社に入社して満足するようなものである。A子との恋が実らなかったので、A子にどことなく似たところのあるB子と親しくなったというのも同じである。以上のようなときBはAに対して(1)代償価を持つという。BがAに比べて達成するのが非常に容易であったり、価値的に低いものであれば、Bを達成してもAに対する代償にはならない。BがAに類似し、Bを得ることの困難度が、Aを得ることの困難度よりも大きいか、違いがないときに代償価は大となる。つまり、( 2 )気持ちになるのである。
しかし代償行動はいつでも生ずるものではない。当初の目標を指向する要求が強く切実な場合には代償行動による満足は生じがたい。ただのあぞび相手ならそれを失ってもほかのものによって代償満足が得られても、真剣な恋の場合にはほかの人では変えられないのである。(3)ほかに人で代わりになるような関係であれば、本当に好きとはいえないのである。
注1 障壁:邪魔になるもの 注2 断念:あきらめる 注3 充足:満たす 注4 指向する:目指す
問1 (1)「代償価をもつ」を表している発話の例として最も適当なものはどれか。
1 「本当はあっちがほしかったんだけど、ちょっと手が出ないな。しかたがない、こっちで我慢しとこうか。これもけっこういいね。」
2 「本当はあっちがほしかったんだけど、こっちでもいいかと思って、こっちにしちゃった。でも、これじゃ、やっぱりだめだね」
3 「本当はあっちがほしかったので、ほかのものには目もくれずに、ずっと我慢していたんだ。よかったよ、待っていて」
4 「本当はあっちがほしかったんだけど、実はこっちにも目をつけていたんだ。どっちも手に入るとはね」
問2 ( 2 )にはいるものはどれか。
1 Bを得たことでAを失ったような 2 Aを得たことでBを失ったような
3 Aを得たことでBを得たような 4 Bを得たことでAを得たような
問3 (3)「ほかの人でも変わりになるような関係」とはどんな関係か。
1 代償行動の要求を強く持つ関係 2 代償行動では満足できない関係
3 代償行動で満足できる関係 4 代償行動に至らない関係