◆潮 騒 ~三島由紀夫
伊勢湾にある歌島は、人口1400、周囲が一里に満たない小さな島だ。18歳の漁師・新治は、ある日、浜で見知らぬ少女に出会った。彼女は船主・宮田照吉の末娘で、名前を初江といった。照吉の一人息子が昨年夭折したため、養女に出した娘を呼び戻し、島で婿取りをさせるという。それから4、5日した強風の日、山の観的哨跡で、新治は道に迷った初江と出会った。観的哨跡から見える景色を彼女に説明しているだけで幸福を感じた。しかしその後、村いちばんの家の息子・安夫が初江の入婿になるという噂を聞き落胆するが、初江は笑い飛ばす。彼らは初めて唇を交わす。二人が逢えるのは休漁の日、場所は観的哨跡。待ちわびたその日、早めに着いた新治は烈しい風と遠い潮騒の音の中で眠ってしまう。目を覚ました彼の前に、上半身あらわな初江がいた。観的哨跡から出て、寄り添う二人の姿が目撃され、村中に噂が広がり、新治と初江の仲は引き裂かれていった。そんなある日、照吉の船に新治は甲板見習として安夫とともに乗り込む。しかし台風に巻き込まれ、船とブイを結ぶワイヤーが切れてしまう。新治は危険を顧みず海に飛び込む。島に帰ると、照吉は娘の婿を新治と決めていた。安夫と新治を同じ船に乗せたのも、どちらが見所のある男かを見極めるためだった。